「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2016/12/31

歳暮

かぞふればわが身につもる年月を送り迎ふとなにいそぐらむ (兼盛)

2016/12/30

一年の反省と人徳

夢現に「古楽の楽しみ」のリクエスト特集、7 時のニュース、フルトヴェングラー特集三日目の頭の方を聞いて、漸くに起き出す。いつもの納豆定食のあと、ラテン語と數學基礎論の勉強を少しづつ。

書き物仕事を少ししてから、朝風呂。湯船で「アンナ・カレーニナ」より、キチイとリョーヴィンの結婚式の場面を讀む。そのあと換気扇の掃除などをして、晝食までは「アンナ・カレーニナ」の續き。

晝食はハンバーグ、マカロニチーズ、キャベツと玉葱の炒めもの、赤ワインを一杯だけ。マカロニチーズは某クラ○ト社のインスタント製品をもらつたので作つてみたのだが、まあそう惡いものではなかつた。いや、意外に美味しいと言へなくもない感じ。午後も「アンナ・カレーニナ」を讀んだり、その合間の掃除。

夕食は鶏肉と豚肉の水炊き鍋。大根おろしに酢とだし醤油で。ビール。のち卵雑炊。夜はこの一年の一人反省会。

一番の反省はやはり、自分に徳がないことなのだが、どうすれば徳が得られるのか見当もつかない。では、自分の周りで徳がありさうな人を参考にしようにも、一人も見当たらない。唯一、私の母方の祖母は徳があつたとつくづく思ふが、今ハ則チ亡シ。やはり真の人徳者は、田舎で黙々と着物なんか縫つてゐて、ほとんど誰にも知られずに生きて死んで行くものなのかも知れない。

2016/12/29

チューリングの二番目に有名な論文

冬休み二日目。いつもの通り「古楽の楽しみ」を寝床で聞いてから起床。いつもの納豆定食のあと、いつものやうに ``Wheelock's Latin" でラテン語の勉強と「キューネン 数学基礎論講義」を少しづつ。朝風呂の湯船で「アンナ・カレーニナ」の續きを讀む。昼食までは、書き物仕事を少々。

昼食は焼きそば(豚肉、鶏肉、干し海老、キャベツ、人参、もやし、干し椎茸)とビール。だしであつさり塩味。焼きそばにビール、そして「アンナ・カレーニナ」。私のつつましい人生の、わびしい日々の中の、ささやかな幸せである。しかし、それ以上に何を求めることがあらうか。午後も「アンナ・カレーニナ」と、``Quantum Computing since Democritus" (S.Aaronson / Cambridge University Press)。

``Quantum ..." を讀んでゐると、「ここでこの本を數分(``a few minutes")ほど脇に置いて、チューリングの二番目に有名な論文を先に讀め」と書いてあつたので、そちらを讀む。実は、恥づかしながら今までこの原論文を讀んだことがなかつたのである。チューリングテストを提唱した論文として有名だが、その部分は「機械は考えることができるのか?」と言ふ曖昧で大きな問題に対し、縮小、具体化した問題として提出した形になつてゐる。元の問題については、九つの「ノー」派の意見に対しチューリング自身の見解を述べてゐるところが愉快だし、最後の章で「学習する機械」について述べられてゐることも興味深い。最近、世の中、人工知能とか深層学習とか賑やかだけれども、本質的にはチューリング以降ほとんど何も進歩してゐないやうな氣がするのだが……おそらくそれは私の認識不足であらう。

さすがに「數分」では讀めないもののかなり短いし、論文と言ふよりは一般向けの論説に近いものなので、讀んだことがない方には一讀をおすすめしたい。

夕食にチキンカレーを作る。赤ワインを一杯だけ。食後にチーズを少し。夜も讀書など。今日も良い一日だ。

2016/12/28

冬休み初日

少し遅く起き出して、チアシード入りヨーグルト、オートミール、珈琲の簡易版朝食。ラテン語と數學基礎論の勉強を少しずつしてから、朝風呂。湯船で「アンナ・カレーニナ」(トルストイ著/木村浩訳/新潮文庫)を讀む。

昼食は買つて來た生餃子を焼いて、大根と人参の紅白なます、ビール。午後は食材の買い出しや料理の仕込みの他は、讀書など。夕食は水炊き鍋とそのあとの卵雑炊。白ワインを一杯だけ。

終日、「アンナ・カレーニナ」と ``Quantum Computing since Democritus" (S.Aaronson / Cambridge University Press)。充実した一日。

2016/12/27

賀茂鶴

仕事納め。定例のミーティングのあと今期のレビュー、一人反省会など。夕方退社。歸りの車中で「源氏物語 第七巻」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)を讀了。冬休み前に丁度讀み終へた。第七巻と八巻の間で光源氏が死去し、第八巻は年始の仕事始めの日から。

水道橋で用を一つ片付けて、お土産に握り鮨と花を買ひ、歸宅。風呂に入つてから、頂き物の「特製ゴールド賀茂鶴」で鮨の夕食。

「アンナ・カレーニナ」(トルストイ著/木村浩訳/新潮文庫)を讀み始める。「幸福な家庭はすべて互いに似かよったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである。……」

2016/12/26

忘年会

さて、年内はあと二日の営業日。

夜は神保町にて、某忘年会に参加。弊社の初代社長が支援してゐる小さなスタートアップ各社が十社以上集まり、盛況だつた。弊社は既に買収されており、すなはち、"exit" 後であると言ふ意味で「スタートアップ」ではないのだが、各社の元気の良さを見るにつけ、見習ふべきことであるなあ、と思つた。

そのあと、同僚二人とベルギービール屋に行き、もう少し飲んでから歸る。そして、今歸宅。営業日はあと一日だ。

2016/12/25

誰が殺したコックロビン

昨夜は某邦楽家のご家族のクリスマス会に飛び入り参加してゐたので、今朝は遅い起床。

一週間分の家事とその合間の讀書の一日。「だれがコマドリを殺したのか?」(E.フィルポッツ著/武藤崇恵訳/創元推理文庫)、``Quantum Computing since Democritus"(S.Aaronson / Cambridge University Press) など。

これから TV で、先斗町歌舞練場での「顔見世大歌舞伎」を観る予定。

2016/12/24

猫日和

今日も良い天気。うちの老嬢もご機嫌だ。クリスマス・イヴだが、私は無神論者だし、一族も西本願寺だか神道だかなので関係ない。とは言へ、三連休だし気分だけは華やかにしようと、クリスマスらしい選曲のクラシックなりジャズなりを部屋に流しつつ、荷受と讀書の一日。

通勤の車中で讀んでゐた「配当」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)が少し残つてゐたのを、冬休みの讀書に集中する前に片付ける。昨日讀了。BASIC のプログラムが出て來たり、電話回線越しにプログラムを「録音」したり、今は昔的な感じがするものの、当時良く勉強して書いたのだらうなあ、と。しかし出來はもう一つ。はつきり言へば、平均以下の作品だと思ふ。年の離れた兄弟二人それぞれが活躍する二部に分けた効果も謎だし、馬鹿であるが故に危険な乱暴者と言ふ悪役の造形が小さ過ぎる。つまりただのチンピラ相手にディック・フランシスのヒーローが二人がかりは變だ。

「エムズワース卿の受難録」(P.G.ウッドハウス著/岩永正勝・小山太一(編・訳)/文藝春秋)、讀了。やはりウッドハウスは良い。ウッドハウスは偉大だ。私は普段、憂ひの玉箒、と言ふ言葉を八海山純米吟醸とかヱビスビールとペアにして良く使つてゐるが、ウッドハウスに使つてもけして不適切ではないと思ふ。

2016/12/23

エムズワース伯爵

遅く起き出して來て、居間の薔薇を愛でる。「ミケ」と言ふ品種らしいが、独特の形と色合ひに味がある。朝食はチアシード入りのヨーグルト、トーストにバタ、茹で卵、珈琲。

春のやうな温かな陽気。洗濯物を干して、風呂に入つてからは、讀書など。「エムズワース卿の受難録」(P.G.ウッドハウス著/岩永正勝・小山太一(編・訳)/文藝春秋)。

こんなのどかな日にぴつたりの短編集だ。私も田舎で、豚と南瓜と庭を愛でる以外に能のない、のんびり屋で綿菓子みたいなオツムの老領主様として暮らしたい。でも、まだそこまでの徳がないなあ、とも思つたり。

2016/12/22

アンナ・カレーニナ

色々あつたが、週末に辿り着いた。もうほとんど年末だし、それ來年でいいじやん、と言ふ感じで色々と先送りしてしまふ。来週のあと二日は平穏にやり過せるかなあ……

冬休みに何か大長編を讀もうと思つて、大長編と言へば「戦争と平和」だらうかと考へたりしてゐたが、トルストイなら「アンナ・カレーニナ」だよ「アンナ・カレーニナ」!と思ひつき、「アンナ・カレーニナ」に決定。

2016/12/21

冬休みの樂しみ

そろそろ年末年始が近付いて來たので、冬休み中の讀書計画を立てる。休みは一週間しかないが、その前後に三連休があるので、それも含めれば結構樂しめさうだ。

昨年末年始はどうだつたか振り返つてみると、「薔薇の輪」(C.ブランド著/猪俣美江子訳/創元推理文庫)、「論語」(吉川幸次郎著/朝日選書)、「幸福について」(ショーペンハウアー著/橋本文夫訳/新潮文庫)、「エマ」(オースティン著/阿部知二訳/中公文庫)、「顎十郎捕物帳」(久生十蘭著/朝日文芸文庫)を讀んだらしい。

今年は大長編を一息に讀んでみようかと思つてゐる。思ひ切つて「紅楼夢」全巻と行くか、樂しみはいくつかに分けて、「戦争と平和」と「細雪」、なんて感じで行くか、何を讀もうかと悩んでゐるだけで、にやにやするほど嬉しくなる。毎日作り置きの料理でちびちびやりながら、だらだらと大長編小説を讀む、冬休みとは良いものである。

2016/12/20

twice shy

いつものやうに、ラテン語と數學基礎論の勉強をしてから出勤。ラテン語は動詞や名詞の変化がかなり頭に入つて來たやうな。基礎論はエルブラン・モデルによる完全性定理の証明が終わつた。少しずつでも毎日やつてゐると、それなりではあるがそれなりに進んで行くものだ。

晝間は概ね色々なミーティングをしてゐた。夜は親会社の部の忘年会に少し顔を出してから退社。歸りの車中の讀書は「配当」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)。原題は ``Twice Shy" で、``Once bitten, twice shy" の諺からとつたやうだ。野蛮な英米人のわりにはうまい言ひ回しの方だらう。我々文明人はこれと同じことを子供ですら「楚辞」から引用して、「羹に懲りて膾を吹く」と美しく表現するのだが。

歸宅して、これから風呂。

2016/12/19

花や蝶や

月曜日。往きの車中の「源氏物語」は「夕霧」の帖。「花や蝶や」と言ふ言葉が出て來て、平安時代からあつた言ひ廻しなのか、と驚く。玉上琢彌先生の注釈によれば、「枕草子」の中に中宮定子の歌として「皆人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける」があるとのこと。実にいい歌だ(いとめでたし)。蝶よ花よと育てられ、と言ふ言葉は今でも使はれると思ふが、語の順番以外にも意味が随分變はつてゐるやうだ。

ミーティングで少し遅くなつたので、先に夕食の支度。簡単に出来るもの……冷凍のハンバーグ種を焼いて、キャベツの炒め物と。赤ワインを一杯だけ。食後のデザートは、包種茶で焼き芋。

2016/12/18

ヒューマン・ファクター

朝食はチアシード入りのヨーグルト、インスタントのスープ、クロワサン、珈琲豆が丁度切れてゐたので包種茶。

日曜日はいつも一週間分の家事と、その合間の讀書など。「ヒューマン・ファクター」(G.グリーン著/加賀山卓朗訳/ハヤカワ epi 文庫)。若い頃に旧訳で讀んだが、今回は新訳版で。物語の中で、「クラリッサ・ハーロウ」(S.リチャードソンの「クラリッサ」)、トロロープの「今生きること」(``The Way We Live Now")、デフォーの「ロビンソン・クルーソー」などのイギリス文學が印象的に用ひられてゐるのがちよつと面白い。

晝食は人参と玉葱のサラダを作り、レトルトのルーに適当にスパイスを加えてアレンジしたカレーライス、シラーを一杯だけ。夕食は、鯵の開きを焼いて、だし巻き卵、押し麦入り御飯、具沢山の味噌汁。


2016/12/17

晝の忘年会

午前中はデリバティブ研究部会自主ゼミ。前回でテキストの章が切り良く終はり、新年次回までかなり間が空くので、今日は私がピンチヒッター的に一回完結の発表をさせていただく。

師匠の古稀を切つ掛けに最近書いたプレプリント(arXiv:1610.06670)の解説。Onsager-Machlup 公式の確率解析的証明について。ファイナンスと何の関係もない、むしろ数理物理的な内容だが、かう言ふ事情なので勘弁していただいた。

ゼミのあとの参加メンバによるランチは、忘年会を兼ねて日仏会館内のフレンチレストランにて。晝から飲む酒はうまい。そして、今年二回目の「良い御年を」。

晝に食べ過ぎ、飲み過ぎたので、夕食はあつさりと月見蕎麦。夜は「ヒューマン・ファクター」(G.グリーン著/加賀山卓朗訳/ハヤカワ epi 文庫)など。

2016/12/16

金曜日

再び週末。親会社の全体会議を終へて退社。今週は七勝八敗の負け越しと言ふところかなあ……歸路にて、握り鮨のお土産とクロワサン 2 個と日本酒(「八海山」純米吟醸)を調達して、歸宅。

里芋の煮物、雷蒟蒻、お土産の握り鮨でぬる燗を一合。のち、インスタントのチゲ風スープ。

これから風呂に入つて、その後は諸橋論語の看経、もしくは明日のゼミ発表の練習。

2016/12/15

九勝六敗と立ちどき

いつもと同じ時間に退社。年度末で懸念事項にこと欠かないのだが、今日の私の運勢は一勝一敗と言ふところかなあ……と思ひつつ歸宅。

昔は、麻雀は学生の嗜みだつたので、私もそれで阿佐田哲也の名前を知つてゐるわけだが、彼が書いてゐた言葉で二つ、心に残つてゐることがある。一つは「九勝六敗」、もう一つは「立ちどき」。

彼が言ふには、賭場で氣をつけるべき強敵は、その場で勝ちまくつてゐる奴ではなくて、いつも九勝六敗の奴だ、と。さうは公言しないし、地味で目立たないが、良く見てゐると明らかに九勝六敗を狙つて打つてゐる奴がゐる、それが最強のギャンブラーだ、と。この理論は時に迷信めいた説明だつたり、時には人生論だつたりで良く分からないのだが、私には負け方の理論に思へた。いかに上手に、美しく、怪我をしないで負けるか。私のモットーは、「人生とは一個の撤退戦」と「無事是貴人/無事是名馬」なので、ネガティヴなところに共感したのかも知れない。

また博打は好きなときに立てるなら、つまり、やめて場を抜けられるなら、簡単だ。「旦那」は大勝ちしたところで初めて立つ工夫を考へる。だから、しばらく「張り流し」をして結局、負ける。プロは実際に立つずつと前から考へてゐる。「立ちどき」を目指して場を作つて行く。それが旦那とプロの差だ。勝ち負けの一つ一つは重要でない。プロ同士の戦いは自分の立ちどきを巡る争ひなのだ、と。

風呂に入つてから、夕食の支度。人参のサラダを作り、冷凍してあつたハンバーグ種を焼く。赤ワインを一杯だけ。のち、カルボナーラ。夜は「喰いたい放題」(色川武大著/光文社文庫)を讀む。

2016/12/14

夜勉

朝一番の臨時ミーティングのため、朝食のあと即出勤。ぎゆうぎゆう詰めの満員電車に揺られながら、日本の夜明けは遠いなあ、と思ふ。私の人生の黄昏は近いけれどもね。

退社時間はいつもと同じ時間。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。白菜と豚肉だけのシンプル鍋。たつぷりの大根おろしとポン酢で。白ワインを一杯だけ。のち卵雑炊。

朝は勉強できなかつたので、夜に "Wheelock's Latin" の演習問題を少し解き、「キューネン 数学基礎論講義」(K.キューネン著/藤田博司訳/日本評論社)を少し讀み進める。エルブラン・モデルで完全性定理を導くあたり。私は朝型では全くないが、それでもこの歳になると午後には身体が疲れてしまふし、夜は晝間の雑念で氣が散るしで、やはり勉強するなら朝が良いと思ふ。

2016/12/13

火曜日

午後からミーティング二つと、その後の往訪仕事。冷たい小雨が降り始めた。歸宅して、雷蒟蒻、里芋の煮物、鶏肉の漬け焼きで冷酒を五勺。のち、インスタントの担々麺風スープ。そして、これから風呂の予定。

今週は長い一週間になりさうだなあ……

2016/12/12

測度論のタオ

兄弟弟子にあたる數學者 O さんが測度論の教科書を翻訳されたとのことで、会社に一部送つてくれた。大學を引退した私にまで、ありがたし。私も二冊ほど測度論の本を訳してゐるので一応は先輩、と言ふことでかな。

著者はテレンス・タオ。タオが測度論とは意外な氣がしたが、そもそも解析學者なので当然なのかも。ぱらぱらと見た感じでは、入門書の体裁ではあるが、かなり難物。測度論とほとんど関係のない「問題の解き方」みたいな内容のオマケの章まであるのは、世界一のパズルソルヴァとしての茶目だらうか。

いつもの時間に退社。歸りの車中の讀書は R.ヒルからまたディック・フランシスに戻つて「配当」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。タイ風の炒めものかけ御飯、インスタントのトムヤムクン・スープ。

夜はゼミの準備。チーズとパンとグラス一杯のワインを傍らに、週末に作つたノートに台詞をつける。

2016/12/11

「エクス・マキナ」

休日の洋風朝食ののち、朝風呂。午前中はゼミの準備。A4 ノートで 8 ページほど書いた。晝食のあとヴィデオで「エクス・マキナ」(A.ガーランド監督/2015)を観る。

カルト的にヒットした「AI 映画」らしいことに興味を持つて観てみた。映像は凄いが、内容は「AI 風味」の軽いスリラー。登場人物は三人だけ、場面はほぼ別荘の中だけの心理サスペンスで、フランス風(?)かも知れない。とは言へ、視覚効果は凄い。映画でなければここまで素晴しい映像は作れないだらう。クーポン券とつぶしたい暇がある人にはお勧めできる。無論、百三十年前に書かれたヴィリエ・ド・リラダンの「未来のイヴ」を読み返す方が刺激的で知的な時間の過し方だとは思ふが。

なお、「AI 風味」については、主人公のプログラマが美少女アンドロイド相手にチューリングテストをする、と言ふ基本設定であること、その中で「色を見たことのない色彩科学者」の思考実験に言及すること、アンドロイドの顔の表情のアルゴリズムが世界中のスマートフォンから集めたデータを基礎に作られてゐるとか「AI」のアルゴリズムは検索エンジンそのものだとか、それつぽいことを言ふこと、アンドロイドを開発した天才技術者の会社が "blue book" と言ふ名前でウィトゲンシュタインの「青色本」からとつたらしいこと、で凡そ全部。

夕方まで一週間分の家事をあれこれ。そろそろ白菜が美味しくなつて來たので、夕食はピエンロー。もちろんビール。あとは雑炊。さらに包種茶と焼き芋。焼き芋ブームが続いてゐて、色々な薩摩芋を試してゐる。夜は「やっぱり美味しいものが好き」(J.スタインガーテン著/野中邦子訳/文春文庫)など。


2016/12/10

老後の樂しみ

あまりに早く目が覚めて、二度寢。8 時くらゐに起き出して朝食の支度。昨日買つた薔薇、ブルゴーニュが綺麗だ。休日の洋風朝食。朝風呂に入つてから、午前中はゼミの準備など。

晝食は春雨サラダと、海老と卵と大根葉のチャーハン、インスタントのトムカーガイ風スープ。晝間に飲むビールはうまい。午後は買ひ出しと料理の仕込み。里芋の煮物と雷蒟蒻を作る。

オーヴンで薩摩芋を焼いてお三時。包種茶を飲みつつ、「メグレと火曜の朝の訪問者」(G.シムノン著/谷亀利一訳/河出文庫)を讀む。メグレものは老後の樂しみにとつておいたのだが、考へてみたら既に老後なので、解禁することにした。そして、「火曜の朝の訪問者」を讀了。人間の謎を解く、か、なるほどなあ……としみじみ。また、完全犯罪の物語としても秀逸。最初から運良く傑作に当たつた可能性もあるが、他の作品も同レベルなら、今まで讀まずに残しておいて良かつたやうな、もつと早く讀むべきだつたやうな。

夕方になつて再び風呂に入つてから夕食の支度。海老と椎茸だけの茶碗蒸し。のち、刻み饂飩。刻み饂飩とは、刻んだ油揚げと葱だけが具のかけ饂飩である。七味ではなく山椒などふりかけて食すと、なかなか枯淡の味はひのあるもので、私のやうな老人向きである。


2016/12/09

鈴虫と松虫

漸く週末だ。往きの車中の「源氏物語」は「横笛」から「鈴虫」の帖に入つた。この時代には、鈴虫と松虫の名前が逆だつたらしい。玉上琢彌先生の注釈によれば、「鈴虫は『チンチロリン』、松虫は『リーンリーン』」とのこと。

そう言へば子供の頃、私の村では、夏に鈴虫(「リーンリーン」の方)を飼ふのが当然の習慣だつた。あの家の鈴虫は声が良い、なんて言つたものだ。私の実家の邊りは、一言で言へば、横溝正史の小説に出て來るやうな田舎村なのだが、今はあんな田舎でもそんなことしないのかなあ。

夕方から大手町で往訪の仕事。そのあと神保町の珈琲屋で一服してのち、直接歸宅。歸り道で「ブルゴーニュ」と言ふ白薔薇を買つた。風呂に入つてから、夕食の支度。春雨のサラダでビール。のち、鶏挽肉のガパオライス、インスタントのトムヤムクン・スープ。週末のビールはことさらにうまい。来週も厄介なことが色々控へてゐるやうなのだが、週末の間は忘れてゐよう。


2016/12/08

ロブスターロール

やれやれ今週は長いなあ……と思ひつつ、歸宅。相談事などがあつて退社が少し遅くなつたので、先に夕食の支度。すぐに食べられるもので、冷奴、焼き椎茸に生醤油、蒸し鶏に胡麻油と塩で、ぬる燗を五勺。のち、釜揚げ饂飩。

食後に包種茶を飲みながら、「やっぱり美味しいものが好き」(J.スタインガーテン著/野中邦子訳/文春文庫)より「ロブスターロール」についての論考を讀む。要するにロブスターのサラダのホットドッグ式サンドウィッチだ。こだはりを持つやうな料理とは日本人の私には思へないのだが、ニューイングランド地方のアメリカ人には欠かせない味だとか。それはさておき、ロブスターの交尾は随分と奇妙なものらしい。まあ、人間のそれだつて随分と奇妙なものだが。

これから風呂に入つてから、諸橋論語の看経ののち、就寢予定。

2016/12/07

山羊肉

今日もこれで寒い方なのか。もつと冬らしくしてもらひたいのだが。軽井沢か富士吉田か青森あたりの気候が私にぴつたりなのではないか……と思ひつつ、出勤。

結晶の模様に凍りついた窓に朧げに浮かぶ銀世界、林檎の木に重く積もる雪、暖炉の前に伸びる老猫クロと盲目の犬(名前はオーディーン)、もう二週間人間とは話してゐない靜かな冬……心行くままに和漢朗詠集を、またはホラティウスをラテン語で、荘子を白文で讀む夕べ、今日の晩餐は塩漬豚肉とレンズ豆の煮込み、マンディアルグの「オートバイ」を思はせる鋼のやうに気高いリースリングの香り…………と言ふ充実した妄想時間を電車の中で過して、いつもの時間に出社。

今日の晝食で、この半世紀近い人生でおそらく初めて、山羊の肉を食べた。インドネシア料理には良く使ふものなのだらうか。いつもの時間に退社。

歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。豆腐と絹莢の卵とぢに牛蒡天で冷酒を五勺。のち、筍御飯と里芋の味噌汁。食後に包種茶と小さな薩摩芋。

2016/12/06

北風

朝は温かかつたのに、日が落ちると外は冷たい北風。風が強いせゐか、気温が急下降したやうに感じる。歸宅後、まず風呂に入つて身体を温める。

湯船の讀書は相変はらず ``The Paper Thunderbolt"(M.Innes / Penguin). アプルビイの妹ジェインが、素性は良く分からないが氣の良い青年を運転手代はりに、謎の救急車を追跡の末、全ての謎の中心にあるらしき、謎の村の謎の施設 ``Milton Manor" に侵入。

夕食の支度。あれこれ料理をする氣になれず、一品で食材を沢山使おうと、ソース系の黒つぽい焼きそばを作る。夜店の鉄板焼きそばをイメージしてみた。ビールがうまい。


2016/12/05

若竹煮

さて、また一週間だ。平日お決まりの納豆定食の朝食のあと珈琲を淹れて、ラテン語動詞の第四変化を暗唱し、「キューネン 数学基礎論講義」を讀み、出勤。

いつもの時間に出社、退社して歸宅。風呂に入つてのち、夕食の支度。昨日、十目焼きそばを作るために無闇に買ひものしたため、食材豊富。

季節外れの若竹煮で、白ワインを一杯だけ。鶏肉ともやしを蒸して、ポン酢で。のち、蒸し鶏のスープを使つて汁かけ飯。山葵と海苔。デザートに小さな焼き芋と包種茶。

今日も變はりない一日であつた。夜はゼミの下調べのためファインマン積分の勉強を少々。

2016/12/04

ランボー号

チアシード入りヨーグルト、バゲットにクリームチーズ、茹で卵、珈琲の簡易的な朝食のあと、朝風呂。午前中はラテン語の単語帳を少し拡充し、「漢文の話」(吉川幸次郎著/ちくま学芸文庫)を少し讀み進めてから、食材の買い出しなど。

晝食は十目塩焼きそば(豚肉、鶏肉、海老、烏賊、椎茸、筍、人参、キャベツ、もやし、莢豌豆)とビール。焼きそばは、具が充実してゐるときは鶏がらスープと塩で白つぽくさつぱりと、具が単純なときは醤油系かソース系で黒つぽく濃厚に、がよろしいと思ふ。

午後は一週間分の家事と、その合間にゼミの準備を少しして、原稿の構想を少し練り、「やっぱり美味しいものが好き」(J.スタインガーテン著/野中邦子訳/文春文庫)を讀む。

夕方になつて再び風呂に入つてから、夕餉の支度。昨日の簡素おでんに牛蒡天と茹で卵と豆腐と蒟蒻を追加。ぬる燗を五勺。おでんの殘りのスープで汁かけ飯風のものを作つて食す。下賎な食べ方だがうまい。

さて、心靜かに諸橋論語を看経する時間だ。


2016/12/03

カルドソと簡素なおでん

チアシード入りヨーグルト、バゲットを數切れ、クリームチーズ、珈琲の簡単な洋風の朝食をとつて家を出る。定例のデリバティブ研究部会自主ゼミ。乗法作用素の連続性など。参加者によるゼミ後のランチはスペイン料理。漁師風のカルドソなど。「カルドソ」は初めて聞いた料理名だつたが、スープ多めの雑炊のことのやうである。

歸り道、神保町で古本屋を軽く周る。河出文庫のメグレものを三冊、食関係では「芝居の食卓」(渡辺保著/朝日文庫)、「やっぱり美味しいものが好き」(J.スタインガーテン著/野中邦子訳/文春文庫)。歸宅して、午後は焼き芋を食べながら讀書など。並行して、大根と里芋と豚串だけの簡素なおでんを仕込む。

夕食は、大根の皮と昆布のなます(もちろん、おでんのだしをとつた後の昆布と、具にした大根の皮で作つたのである)、里芋と豚串のおでんでビール。牛筋と違つて豚串は焼いて塩をふつて食べた方が遥かにうまいことは承知してゐるが、だしをとるため一本だけ入れてみた。のち、釜揚げ饂飩(生卵、刻み葱)。

夜も心靜かに暮らす。おつと、そろそろ諸橋「論語の講義」の看経の刻限ゆゑ失礼いたす。


2016/12/02

モーダス・ポーネンス

「古楽の楽しみ」のリクエスト特集に、金曜日だな、と夢現に思ふ朝。今日のラテン語は、第四変化動詞のあたり。幸ひにもラテン語の規則動詞の活用形は 4 パターンしかない。と言つても、それぞれに人称が 6 つあり、それぞれに時制が直接法で 6 つ、接続法で 4 つあるのだが。數學基礎論はトートロジーについて。またラテン語が出て來た。モーダス・ポーネンス("modus ponens")。

いつもの時間に出社、退社。夕食を作るのが面倒で、歸り道にスープカレーで済ませる。夜は「元禄忠臣蔵」(真山青果著/岩波文庫)、「漢文の話」(吉川幸次郎著/ちくま学芸文庫)など。

2016/12/01

十二月

いつものやうに朝食と弁当作りのあと、ラテン語、數學基礎論の勉強をして、いつもの時間に出勤。いつもの時間に退社して歸宅。風呂に入つてのち、夕食の支度。塩豚とキャベツの炒めもので白ワインを一杯だけ。のち、卵かけ御飯、焼き海苔、里芋の味噌汁。食後に包種茶と小さな焼き芋。夜は「元禄忠臣蔵」(真山青果著/岩波文庫)など。

早いもので、気付けばもう十二月である。今年もあと少し。あらたまの年も暮るれば作りけむ罪ものこらずなりやしぬらむ(兼盛)。十二月と言ふことは、私の社長業も丸二年。義理と人情でやむなく引き受けたのだつたが、早いものだ。

2016/11/30

雪の別れ

夢現に「古楽の楽しみ」で D.スカルラッティを聴く。朝食と小一時間の勉強のあと出勤。往きの車中で「源氏物語」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)の第六巻、讀了。明日からは第七巻、「柏木」から「雲隠」の帖まで。つまり七巻で柏木が死に、紫の上が死に、光源氏が死ぬ。

今日も我が身の至らなさを痛感し、反省しつつ歸宅。猫や鳥とだけ暮らしてゐれば氣樂だらうが、吾斯ノ人ノ徒ト与ニスルニ非ズシテ誰ト与ニセン、と言ふ聖賢の言葉もある由。風呂の後、夕食の支度。仕込んでおいた塩豚を使つてカルボナーラ。白ワインを一杯だけ。チーズを少し。夜は「元禄忠臣蔵」(真山青果著/岩波文庫)の下巻、「南部坂雪の別れ」から「吉良屋敷裏門」へ。

「元禄忠臣蔵」は資料調査に基き、史実に大きく外れないやうに書かれてゐるのだが、それでも「南部坂雪の別れ」は含まれてゐる。大石内蔵助が討ち入り直前、最期の別れのため瑤泉院宅を訪れる、「忠臣蔵」名場面中の名場面だが、実際は起きなかつた創作であることでも有名。「元禄忠臣蔵」ではこの篇の付記に、黙阿弥の原作に倣つて世間伝説を尊重して作つた旨、注意書きされてゐる。この場面は面白過ぎて作家として書かずにはおられなかつたのだらうが、流石に抑制が効いてゐて味のある一篇である。

とは言へ、お芝居としては、大石を罵つて追ひ返した瑤泉院が後で血判状を見つけて、「おお、あたら忠義の士を、女ごころの浅はかさから、あのやうに悪し様に……許してたもれ、許してたも、内蔵助……」と号泣する、なんて方がずつと感動的なのだが。

2016/11/29

ハンバーグ

今日は予定通りに目が覚めて、「古楽の楽しみ」を始めから聴くことができた。もちろん寢台で、だが。バッハのカンカータ。明日は D.スカルラッティとソレールらしい。ちやんと起きられれば良いのだが。朝食と弁当作りのあと、ラテン語と數學基礎論の勉強を三十分づつしてから、今日も念々今日、念々今日、と唱へながら出勤。

夕方いつもの時間に退社。歸宅してまづ風呂。湯船では相変らず、``The Paper Thunderbolt"(M.Innes / Penguin) を讀んでゐる。一日精々二、三ページとは言へ、ほとんど毎日讀んでゐると進むもので、六割方のところまで來た。アプルビイの妹ジェインが謎の救急車を追跡中、アプルビイも謎の村に焦点を定めて活動開始、と言つたところ。

夕食の支度。朝から楽しみにしてゐたハンバーグをゆるゆると焼く。他に、薩摩芋、目玉焼き、キヌアのトマト煮。カルカソンヌ産のシラーを一杯だけ。夜は「元禄忠臣蔵」(真山青果著/岩波文庫)の上巻から下巻へ。やはりしばしば上演されるだけあつて「御浜御殿綱豊卿」の篇は良く出來てゐる。松嶋屋の声を思ひ出しながら讀む冬の夜。

2016/11/28

ねんねんこんにち

また一週間。朝食と弁当作りのあと、ほんの少しづつラテン語と數學基礎論の勉強をして、出勤。やや忙しい一日。夕方いつもと同じ時間に退社。嗚呼、今日も私の人格的な至らなさの目立つ一日だつたなあ、と反省しつつ歸る。シブミの境地はまだまだ遠い。

歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。餃子鍋とそのあとの卵雑炊。白ワインを一杯だけ。夜は「元禄忠臣蔵 (上)」(真山青果著/岩波文庫)など。

「毎日目がさめると同時にな、あああ、今日も結構な日に生きていて仕合せじゃ。有り難い今日に遇いまする。その有り難い今日を、徒に過ぐしてはなりませぬ。今日一日は面白おかしゅう、結構に送らせていただきますと、天地の御恩に謝するのを、仏家の方では念々今日と申すのじゃ」、とは、伏見撞木町の揚屋で芸者衆と浮かれ騒ぐ大石内蔵助の有り難いお言葉である。「明日の大事があるゆえに、今日飲む酒がうまいのじゃ。そちにはその心が分からぬか……」。

2016/11/27

日曜日

また寢坊。十一時間、寢てしまふ。しかもまだ眠い。最近、段々睡眠時間が延びて來てゐて、そのまま起きられなくなるのではないかと心配だ。それはそれで一番幸せなことかも知れないが。慌てて朝食をとる。夕方まで一週間分の家事と、その合間の讀書の日曜日。

「シブミ (下)」(トレヴェニアン著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)、「元禄忠臣蔵 (上)」(真山青果著/岩波文庫)など。

夜は田園調布のフレンチレストランにて会食。

2016/11/26

シブミ

家事の他は讀書の一日。今日明日で「シブミ」(トレヴェニアン著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)をゆつくり読もうと思ひ、今朝から始める。

初めて讀んだのは確か高校生の頃だつたのだが、当時は滑稽な、と言ふほどではなくとも、戯画的な印象を受けたものだ。何せ、滅び行く日本の心「シブミ」を会得した暗殺者ニコライ・ヘルが主人公なのである。「アイガー・サンクション」の主人公ヘムロック教授も、大學教授で美術鑑定家でありながら、絵画蒐集の高額な費用を捻出するため殺し屋をしてゐる、と言ふ漫画のやうな設定だつたが、それを上回る造形。

ニコライ・ヘルはハプスブルグ家の血をひきながら、日本人に育てられて日本的精神の至高の境地「シブミ」を目指すに到り、囲碁とケイヴィングの達人で、狙撃や望遠カメラすら「近接感覚」によつて無意識に避けることができ、日常のあらゆるものを武器にする殺人技「裸-殺」を極めた世界屈指の暗殺者だつたのだが、今はバスク地方の寒村で情婦と庭師とともに靜かに引退生活を送つてゐるのである。

しかし今讀むと、トレヴェニアンにおいて漫画的な設定はあくまで形式なのであつて、その形式を徹底することによつて何か他のことを書いてゐるのである。トレヴェニアンは寡作だが作品はどれも凡庸な作家の傑作の遥か上であり、その中でも「シブミ」が彼の代表作であり最良の作だろう。


2016/11/25

キアスムス

今日も気温は低めだが、日差しはあたたかい。と言ふ様子を窓辺から見てとる。猫が日溜まりで、にゃあむにゃあまあにゃ、と何事かしやべつてゐる。この朝を寿いでゐるのだらう。「愚かなる人間どもめ、我を崇めよ……」とか言つてゐるのかも知れないが。猫にキャットフードと水をやつて、朝食の支度と弁当作り。

食事のあと、いつもの勉強を 30 分づつ。ラテン語は "Wheelock's Latin" でマルティアリスのエピグラム 12.10 の chiasmus, すなはち交差対句法を鑑賞し、セネカの道徳書簡集の一節 17.5 からの例文を明日のために書き写しておく。「キューネン 数学基礎論講義」は命題論理のコンパクト性定理とか。四色問題への応用がなかなか面白い。

いつもの時間に出社、所用のためいつもより少し早く退社。これから風呂に入つてのち、「元禄忠臣蔵」(真山青果作/岩波文庫)でも讀みながら寢よう。

2016/11/24

背理法

また少し寢坊。居間のカーテンを開けると、雪が降り、屋根屋根に積もつてゐる。「霜月の帝都に雪か……大蔵省あたりの首塚が騒ぎ出したやうである」、「にゃあ(御意)」、「お上は御無事であらうな、侍従長の入江に一応問ひ合はせよ」、「にゃあ(御意)」と言つた小芝居を窓辺で猫と交はして、朝食の支度。

ラテン語の勉強は Martial "Epig." 12.10 の解釈、「キューネン 基礎論講義」は "Reductio ad Absurdum" など。思ひがけなくこちらもラテン語だ。基礎論の根の一つは中世のスコラ哲学なので、不思議ではないが。雪の中へと出勤。いつも通りに、定時から定時まで。夕方には既に雪は消えてゐたが、昨日までに比べてぐんと寒い。

歸宅して、風呂に入つてから夕食の支度。豚肉の水炊きとそのあとの卵雑炊。カルカソンヌの白ワインを一杯だけ。夜は「窓際のスパイ」(M.ヘロン著/田村義道訳/ハヤカワ文庫)の讀み残しを終へる。

2016/11/23

窓際賊

やや寢坊して起床。昨夜は会食だつたので、簡略的な朝食。そのあとラテン語の勉強。朝風呂に入つて、「窓際のスパイ」(M.ヘロン著/田村義道訳/ハヤカワ文庫)を讀み始める。

MI5 で不祥事を起こした部員が送り込まれる最下層の窓際部署、通称「泥沼の家」を舞台にしたエスピオナージュ。設定に新味があるものの、プロットが単純過ぎるし、作品内でも言及されるモームやル・カレのやうな深さや風格がない。とは言へ、やはりイギリスの伝統的なスパイ小説だなあ、と思ふ。末の世なのだから、新しいものはこれで十分素晴しいと見なければならない。著者はベリオール・コレジ卒のインテリで、オックスフォードからロンドンに通勤する会社員、その余暇でミステリやスパイ小説を書いてゐるらしい。そこも伝統的。

晝食は明太子スパゲティ。午後も「泥沼の家」の他、數學基礎論の勉強や、少し原稿書きの仕事など。夕方再び風呂に入つて夕食の支度。白菜の浅漬、秋刀魚煮、焼き餃子、御飯、若布と糸寒天の味噌汁。食後にチーズでワインを一杯だけ。

夜はヴィデオで映画「忠臣蔵」(渡辺邦男監督/1958年)を観る。忠臣蔵はやはり良い。分かつちやゐるけど泣いてしまふ。

2016/11/22

初「よいお年を」

夕方から渋谷にて E 社の N 社長と会食。まだ十一月だが N さんは年末はもつとお忙しいのだらう、これが忘年会のお誘ひ。胡瓜やら砂肝ポン酢やらを齧りながら、わびしく一年を振り返る。夏に手術入院をされたとかで心配してゐたのだが、元気そうで安心した。

二時間でお開きになつて、渋谷駅にて「よいお年を」と挨拶をして別れる。十時間睡眠する私は歸つて寝支度をしなければならない時間だからだが、N さんは青山あたりの馴染のバーに行くやうなことを言つてゐた。

今、歸宅して、これから風呂。そしてすぐに就寢予定。

2016/11/21

餃子鍋

さて、また一週間。昨夜は觀劇で遅くなつたせゐもあり、かなりの寢坊。とは言へ、朝食、弁当作り、ラテン語、數學基礎論と、それぞれ十五分づつくらゐの感じで無理矢理こなして、出勤。もつと腰を据ゑてかからねば身にならないと思ふものの、生来の怠け者ではしやうがない。

いつも通りの時間に出社、退社。冷たい小雨がぱらついてゐる。歸り道のスーパーで買ひ物。まだ白菜が高いが、今日は鍋しかないな、と思ひ購入。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。大量に大根おろしを作つておいて、餃子鍋。ペールエールを一本だけ。あとは饂飩にした。ささやかな幸福。

昨夜歌舞伎座で観た「元禄忠臣蔵」に感心して、早速、古本屋に「元禄忠臣蔵 (上・下)」(真山青果著/岩波文庫)を注文した。やはりこの季節、日本人は忠臣蔵だ。渡辺邦男監督の「忠臣蔵」も観なければ、とヴィデオを探してみたり。

2016/11/20

吉例顔見世大歌舞伎

ほとんど毎日のことだが、また十時間以上寢てしまつた。朝食はチアシード入りのヨーグルト、トーストにバタと自家製の葡萄ジャム、目玉焼きにキヌアのトマトソース煮、珈琲。洗濯をしてから、朝風呂。晝食の時間までは少し書き物仕事。

晝食は納豆アーリオ・オリオ・ペペロンチーノと白ワインを一杯だけ。食後にさらに晝寢。手抜き氣味に殘りの家事を片付けて、夕方から歌舞伎座へ。

十一月と言へば顔見世である。冷酒を一合ほど水筒に詰めて行き、木挽町辨松で買つた幕の内を肴に飲みながら觀劇。吉例顔見世大歌舞伎は芝翫他の襲名口上の他、「元禄忠臣蔵」、「盛綱陣屋」、「芝翫奴」。

目当ては「元禄忠臣蔵」の「御浜御殿綱豊卿」。綱豊卿に仁左衛門、助右衛門に染五郎。仁左衛門は流石で、深い奥行のある役柄を余すところなく演じてゐた。染五郎はおおざつぱだが、人柄に合つてゐるのか、安定感があり、仁左衛門にも負けてはゐなかつたのでは。それから、女形の梅枝がなかなか良いと以前から思つてゐる。今回はお喜世を演じてゐて、地味ながら過不足ない。


2016/11/19

451

雨音で目が覚めた。朝食のあと身支度をして、定例のデリバティブ研究部会自主ゼミに出かける。Ornstein-Uhlenbeck 半群の従属操作、乗法作用素など。ランチは重慶麻婆豆腐。

歸宅して午後は讀書など。「華氏 451 度 [新訳版]」(R.ブラッドベリ著/伊藤典夫訳/ハヤカワ文庫)。旧訳のやや冗長で讀み難い印象がすつかり變はり、こんなに凝縮された短かい話だつたつけ、と言ふ感じ。もちろん文字通り不朽の名作である。あとがきでも言及されてゐる F.トリュフォーによる映画化は、高校生の頃に友人宅で観た。暗いイメージの映画だつたとしか内容は記憶にないが、三十年以上前のことなのに観た状況は覚えてゐるところからして、傑作だつたのかも。

夕方になり、風呂に入つてから夕食の支度。大根千切りきんぴらと秋刀魚煮で冷酒を五勺。メインは塩豚と牛蒡の炊き込み御飯。若布と糸寒天の味噌汁。食後に種子島安納芋の焼き芋と包種茶。


2016/11/18

横浜とヒントン

「古楽の楽しみ」のリクエスト特集に、ああ金曜日だなあと思ひ、モンセラートの朱い本なんて言ふリクエストに、渋いリスナもゐるものだなあ、と思ふ朝の寢床。起き出して朝食を食べ弁当を作り、ラテン語の勉強と數學基礎論の勉強を三十分弱づつして出勤。

いつもの時間に出社、退社。歸り道で生餃子を買つて歸宅。風呂に入つてから、餃子を焼いて、ペールエールを一本だけ。半分は酢で、半分は辛子とポン酢で食べた。今週も生きてゐて良かつた、と言ふよりは、まあ悪くはなかつたし、おそらく死ぬよりは断然ましだつた。

夜は心靜かに、「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)より C.H.ヒントンの巻「科学的ロマンス集」を讀んだり。文學全集にヒントンを入れると言ふアイデアはボルヘスでなければ思ひつかないのでは。ところで、宮川雅氏が月報に、ヒントンは(おそらく)御用學者として日本に滞在してゐたことがあると書いてゐて、ホホウと思ふ。中學校で數學を教へてゐたらしい。だから何と言ふこともないのだが。ちなみに、横浜山手のフェリス女學院のそば、願西寺の隣に住んでゐたと言ふ。

2016/11/17

鰯の缶詰

歸りの電車は遅延のせゐかぎゆうぎゆう詰めの満員。途中から本を開いてゐられなくなつて、しかし鞄に片付けることもできず、毛主席語録を掲げる共産党員のやうな格好に「真夜中への挨拶」(R.ヒル)を捧げ持つたまま全身マッサージを受けながら揺られて行く。酷い目にあつた。

歸宅して風呂のあと、夕食の支度。疲れてまともに料理をする氣になれず、手抜き。キャベツを千切りにしてフライパンに敷き詰め、切つた塩豚を並べ、酒と醤油をふりかけて蒸し炒めにする。赤ワインを一杯だけ。のち、押し麦入りの冷や御飯にレトルトのチキンカレー。食後にワインとカマンベールを少し。

夜は「論語新釈」(宇野哲人訳注/講談社学術文庫)など。新釈、つまり朱子の注釈に沿つたもので、あまり現代的とは言へないが、それはそれで勉強になる。

2016/11/16

水曜日

まだ水曜日。今週は長いなあ……と思ひつつ歸宅。風呂に入つてから夕食の支度。秋刀魚煮で冷酒五勺を始めながら、大根と豆腐の小鍋だてが煮えるのを待つ。のち、味噌味の卵雑炊。食後に台湾の包種茶と小さな焼き芋。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)よりベックフォード「ヴァテック 上(正篇)」(私市保彦訳)など。

2016/11/15

カルボナーラ

また少し寢坊。朝食後、"Wheelock's Latin" でラテン語の勉強を少し。いまだに指示代名詞などをやつてゐる。演習問題でテレンティウスの文を二つ解釈。次は「キューネン 数学基礎論講義」(藤田博司訳/日本評論社)。漸く集合論の章を終へてモデル理論と証明論の章に入つた。それぞれ一日三十分弱とは言へ、それなりに進んで行くものだ。

いつもの時間に出社、退社。昨夜の雨のせゐか、朝も夕方も空気が生暖かい。歸宅して風呂に入つてから、夕食の支度。葱焼豚で白ワインを一杯だけ。のち、仕込んでおいた塩豚でカルボナーラ。カルボナーラは最強の卵料理の一つだなあ……グラスに殘つたワインでチーズを少し。のち小さな焼き芋一つ。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)よりベックフォード「ヴァテック 上(正篇)」(私市保彦訳)など。

2016/11/14

猫は寢る子

また月曜日である。なかなか起きられず。猫はいいなあ、寝たきりで。往きの車中の「源氏物語」は「若菜 上」の帖を讀了。「若菜 下」に續く。猫の話。歸りの車中では「真夜中への挨拶」(R.ヒル著/松下祥子訳/ハヤカワ・ミステリ 1782)。

歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。アーリオオーリオを作つて、この前の「イカのスペイン風」の殘りを添へ、パセリを散らす。白ワインを一杯だけ。グラスに残つたワインで、チーズを一切れ。のち焼き芋一つ(焼き芋ブーム継続中)。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)よりベックフォード「ヴァテック 上(正篇)」(私市保彦訳)など。

2016/11/13

「疲れた男のユートピア」

十時間寢てもまだ眠い。休日向けの洋風朝食を済ませ、朝風呂の湯船で「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)のボルヘスの巻「パラケルススの薔薇」より「疲れた男のユートピア」(鼓直訳)を讀む。

「百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。」

同短篇に登場する未來人が、本を二千冊所有してゐると言ふ主人公に対して、自分は四百年生きてゐるが十五冊も読めてゐない、繰り返して讀むことが大事だ、と言ふ。この未來に於ては印行は絶滅してゐる。電子出版に代はられたのではなく、書写に戻つたのである。印行は不必要にテクストを増大させる愚行だと分かつたから。ところで、同書巻末にボルヘスがアルゼンチンの出版社の企画で選んだ ``Biblioteca personal"(「個人図書館」)百冊のリストが収められてゐる。最近の私は、引退後に繰り返して讀む精々百冊程度の書架を持ちたいと思ふやうになつて來たので、参考になる。

晝食はお好み焼きと赤ワインを一杯だけ。のち、「青い虎」を讀みながらグラスの殘りでチーズを少し。さらに、焼き芋。晝寢二時間のあと、家事。掃除や料理の仕込み。夕方になつて再び風呂のあと夕食の支度。牛蒡と人参のきんぴら、葱と焼豚、のち、うな茶。夜は、いつの間にかまた冬だなあ、と思ひつつ「和漢朗詠集」(三木雅博訳注/角川ソフィア文庫)など。風雲ハ人ノ前ニ向ヒテ暮レ易シ、歳月ハ老ノ底ヨリ還リ難シ、か。

さてまた明日の朝からお仕事だ。日曜日の夜から既に疲れ氣味なのだが。


2016/11/12

「烏賊はおのれの墨を選ぶ」

近所のスーパーに買ひ出しに行つて、するめ烏賊の目玉と目が會ふ。先日「檀流クッキング」から「台湾おでん」を作つたし、昨夜「バベルの図書館」の「アルゼンチン短編集」よりビオイ=カサレス「烏賊はおのれの墨を選ぶ」を讀んだことから導き出される結論は、ずばり「イカのスペイン風」(プルピートス)だ。

そんなわけで晝食に「イカのスペイン風」を作る。かう言ふ時は色々と平仄が合ふもので、たまたま買つてあるワインも大蒜もスペイン産。パンを添へて白ワインと。晝間からうますぎる。「檀流クッキング」の中でも一二を争ふ料理だと思ふ。

行つたことはないがスペインはきつと良い國に違ひない。アルゼンチンも。

2016/11/11

ブランド薩摩芋

親会社の全体会議のあと退社して、帰り道で薩摩芋などを買つて歸宅。この前は近所の八百屋で処分品を買つたのだが、今回は某高級スーパーで福井県富津地区産「とみつ金時」を買つてみた。所詮が薩摩芋なので高価なものではないのだが、関西弁で言へば「なんぼのもんやねん」と言ふ気持ちで。私は子供の頃から焼き芋と言へば、お向かひの徳島県産「鳴門金時」だつた。さて、とみつ金時はなんぼのものか。

湯船の讀書は、"The Paper Thunderbolt" (M.Innes / Penguin) 。丁度、中程。謎の研究所から逃走を續けていた小悪党 Routh の進路がオックスフォードにてアプルビイと交錯。オックスフォードでは学生の他に子連れの外国人女性も謎の失踪。秘密は "Milton Porcorum" と言ふ妙な名前の村にあるらしい……と、漸く面白くなつてきた。しかし一日數ページづつしか進まないので、今年中に讀み終へられるかも怪しい。

そして食後にとみつ金時をオーヴンで焼き芋にして食べてみた。確かにうまい。ねつとりとしてゐて、甘みが強く感じられ、これだけでデザートとしての風格がある。一回つぶして裏漉ししてから固め直したかのやうな透明感……やるな、とみつ金時。でも、「当タリ」の時の鳴門金時もこのくらゐ美味しかつたはず、と弁護して置こう。

2016/11/10

幸せの秘訣

昨日よりも気温が低いものの風がないので、さほど寒くない。コートは着ずに家を出た。いつもの時間に出社、退社。歸り道で食材と花を買ふ。糠雨が降つてゐる。

夕食の支度。小松菜の浸しと高野豆腐と卵の煮物でぬる燗を五勺。のち、小さな鰻丼と澄まし汁。鰻もうまいが、何よりも米がうまい。私は普段、押し麦との七三なので、白米が無闇にうまい。

我が家では猫にも言ひ聞かせてゐるのだが、たまにだから美味しいので、毎日食べたらすぐ美味しくなくなる。だから、普段は乾燥キャットフードで、土曜日だけパウチもの。おかげで土曜日は、「こんなうまいもの食べたことにゃんにゃー!」くらゐの勢ひでがつがつ食べてゐる。若干、哀れをもよほさないでもないが、私も同じ。

夜は「論語」と「エセー」で心靜かに過す。

2016/11/09

台湾おでん

今日は強烈な北風が吹くと言ふので、トレンチコートを着て出勤。しかし久しぶりに重いコートを着たので肩が凝つてしまつた。少しでも輕くしようと肩のストラップを外してゐるのだが、やはり大差ない。しかも、もし塹壕に落ちても誰かに引き上げてもらへない。

夕方から私用のため今日も少し歸宅が遅くなつた。夕食は「檀流クッキング」(檀一雄著/中公文庫)に邱永漢氏から直伝された料理として紹介されてゐる「台湾おでん」(?)。今朝から仕込んでおいた。赤ワインを一杯だけ。のち、押し麦入り御飯に溶けた葱など乗せて台湾おでん丼的なものにして食す。食後にグラスに殘つたワインでカマンベールの燻製を少し。

「檀流クッキング」には色々樂しい料理が出てゐるが、私が試してみた中で断トツに美味しいものが二つあって、その一つがこの「台湾おでん」だ(「パーソー」と題された章に出てゐるが、パーソーとは別の料理)。時々、発作的に食べたくなつて作つてしまふ。ちなみに、本にはほとんど醤油だけで煮るかのやうに書かれてゐるが、いくら何でも塩辛過ぎるので、私は鍋に醤油と酒をお玉に一杯づつ(あとは水)にしてゐる。

2016/11/08

鰻の柳川鍋

なんとか八時間程度の睡眠時間で、五時半に起きられたのだが、すると今度は日中に眠くてしやうがない。夜に十時間寢て晝に二時間ほど寢れば調子が良いのだが、それでは普通の勤め人の生活が出來ない。悩ましいところだ。夕方から親会社の関連深い部署の全体会議があつたので、歸宅がかなり遅くなつた。外は冷たい小雨。

風呂は後にして、まず晩酌。ぬる燗を五勺、小松菜のおひたしにちりめんじやこ。續けて、鰻と牛蒡の柳川風鍋。身体があたたまつたところで、蕎麦を茹で、鍋に殘つただしにつけて食す。山椒もまたよし。

この後、風呂に入つてから、バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)よりカゾット「悪魔の恋」の巻など讀みながら就寢の予定。

2016/11/07

嗜眠症

八時間睡眠で六時に起きられた、と思つて「古楽の楽しみ」を聞き始めたらまた寝てしまひ、気付いたら七時半を過ぎてゐる。また十時間近く寝てしまつたのだ。ナルコレプシだと言ひたいところだが、ただの怠けもの。若いときに素直でなく、大人になつて誰にもほめられず、おめおめと歳だけとつて死にもしない、そんな輩を賊と言ふのです、と。誰かに脛でも叩かれた方がいいのかも。

と、自分を叱咤激励して、慌てて朝食をとり、適当に弁当を詰め、本當に少しづつ(多分、十五分づつくらゐ)ラテン語と數學基礎論の勉強をして、出勤。いつもと同じ時間に出社。

夕方いつもと同じ時間に退社。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。鰻と長葱のざくざくでぬる燗を五勺。續いて湯豆腐。そして小松菜の煮麺。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)よりカゾット「悪魔の恋」の巻など。

2016/11/06

笑ふ食エッセイ

いくらでも眠れる。晝寢を二時間した上に、夜は十時間寝てしまふ。ツェツェ蠅に刺されたのか。明日からちやんと通勤できるのか不安だ。遅く起き出して簡単な朝食。朝風呂に入つて、湯船で「茶話」(薄田泣菫著/冨山房百科文庫)を讀む。

晝食はマルタイの棒ラーメン(小松菜と豚肉と茹で卵と葱)。午後は讀書と家事など。三時に珈琲と、小さなトーストに厚くバタを塗り自家製の葡萄ジャムを乗せて焼き直したものを食べながら、「笑う食卓」(立石敏雄著/阪急コミュニケーションズ)を讀む。「笑う食卓」は兎に角、可笑しいし、猫のヒジカタクンが可愛い。

食と料理に関する笑へるエッセイと言えば、この立石敏雄とフェデリコ・カルパッチョが両雄だと思ふ。しかし、立石氏は 2008 年「笑う食卓」の一冊しか著書がないし、カルパッチョ氏は盟友ドットーレ・コグレ亡き後、消息不明と聞いてゐるので、残念至極だ。おそらく前者はますます深窓のをぢさん化して主夫業に励み、後者はイタリアに歸國して老いてますます盛んに健全な美女たちと健全な美食に耽つてゐるのだらう。どちらも羨しい限りである。

夕方再び風呂に入つて夕食の支度。小芋の煮物でぬる燗を五勺。日曜日くらゐは酒を控へようと思ふのだが、酒は憂ひを払ふ玉箒……などと呟きつつ、やはり飲んでしまふ。そのあと、鯵の開き、明太子だし巻き、焼き海苔、豚汁、押し麦入り御飯。さて、また一週間だ。

2016/11/05

神保町

午前中は定例のデリバティブ研究部会自主ゼミ。K さんによる、対数ソボレフ不等式の証明、超縮小性の応用など。相変はらず滑らかな講義ぶりだつた。ゼミ後のランチはタイ料理。トムヤムクンの麺にガパオライス(小)とサラダ付き。美味しかつたけれども食べ過ぎ。もう歳なんだから、炭水化物の炭水化物添へみたいなセットは止めないと。

そのあと、神保町へ。古本まつりの最中らしく、かなりの人出。ミステリ系と「料理と食」系の古書店などを周る。レジナルド・ヒルとディック・フランシスの未読の翻訳の他、"The Silent Speaker"(R.Stout / Bantam), "Death of a Doxy"(R.Stout / Bantam), "From London Far"(M.Innes / Penguin). 「料理と食」方面は買ひたい本が見つからず。珈琲屋で一服してから帰る。歸宅して本を讀みながら、少し横になつたら、暗くなるまでまた寝てしまつた。

夕方になつて風呂に入つてから夕食の支度。ぬる燗五勺で、小芋の煮物と鯵の味醂干し。のち、卵雑炊(大根、人参、葱)。夜は、こんなに洋書を買つても存命中に読み切る語学力がないんだがなあ、と思ひつつ本の整理。

2016/11/04

湯豆腐からうどんすき

祝日と土曜日の谷間の金曜日出勤。眠くてしやうがない。急に気温が下がつて來たせゐで、身体がその変化について行けないのか、または身体が冬眠しようとしてゐるのかも。兎に角、体力はさておき、知力と気力が大いに減退してゐるので何とかせねば。

夕方いつもと同じ時間に退社。歸りの車中の讀書は今日から、「真夜中への挨拶」(R.ヒル著/松下祥子訳/ハヤカワ・ミステリ 1782)。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。湯豆腐でペール・エール。湯豆腐はいい。のち、子母沢寛流のうどんすきに展開。脂身の多い豚肉を鍋に煮立てておいて、しやぶしやぶの要領でうどんをくぐらせ、たれにつけて食べる。たれは醤油と味醂を昆布だしで適当にのばしたもの。味醂を強めに効かせた方がうまい。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)よりスティーヴンソンの巻「声たちの島」(高松雄一・高松禎子訳)など。

2016/11/03

芋を焼いたり煮たり

祝日だがいつもと同じやうに起床して、いつもと同じやうにラテン語と數學基礎論の勉強を三十分づつ。湯船で「茶話」(薄田泣菫著/冨山房百科文庫)を讀みながらゆつくり朝風呂。晝食までは書き物仕事を少し。

晝食はマリナーラソースを作つて、小松菜のポモドーロ。赤ワインを一杯だけ。チーズを少し切る。午後は、「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)の「ロシア短篇集」の巻よりトルストイ「イヴァン・イリイチの死」(川端香男里訳)や、 "The importance of living" (Lin Yutang / Harper)など。三時には薩摩芋をオーヴンで焼き芋にして食べた。近所の八百屋で一袋(四本)百円で買つたのだが、意外に美味しい。

夕方になつて再び風呂に入つてから夕食の支度。豚肉の漬け焼き、キャベツ千切り蒸し、豚汁、押し麦入り御飯。ついでに小芋の煮物も仕込んでおいた。これも八百屋で一袋(20 個くらゐ?)百円で買つた。小芋と言ふにも小さいので、そのまま塩茹でして皮を剥きながら食べるべし、と八百屋は薦めてゐた。簡易版の衣被だが、酒の肴に乙かも知れない。

2016/11/02

「標的」と「論語」

水曜日。だが、明日は祝日なので週末気分。歸りの車中で「標的」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)を讀了。

かなり後期に属する作品だが、安定した面白さ。今回は、小説家を目指すサヴァイヴァルの専門家が、アルバイトで伝記を書くことになり、調教師一家に関わる。設定をひねり過ぎてゐるし、今回こそ馬はいらないだろう、と思ひもしたが、それでも水準以上の出來。次はまたレジナルド・ヒルに戻つて「真夜中への挨拶」の予定。フランシスはあと八冊、ヒルはあと四冊。

歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。また鍋。今日は寄せ鍋にしてみた。でも具は豚肉、小松菜、しめじ、えのき、長葱、と昨日とほとんど同じ。白ワインを一杯だけ。あとは饂飩。長葱の青いところと卵を追加。食後にカマンベールの燻製を切つてワインをもう少し。

夜は、愛讀書の「論語」(貝塚茂樹訳注/中公文庫)。どれくらゐ愛讀してゐるかと言ふと、左の写真くらゐ。私は「論語」より「荘子」や「列子」の方が遥かに好きだ。しかし、良く繙くのは何故か貝塚「論語」。カルヴィーノが、自分だけの古典とは自分が無関心でゐられない本であり、その本の論旨に賛成できないからこそ、さうなのかも知れない、と言ふやうなことを書いてゐたのを思ひ出す。

2016/11/01

いつもの時間に出社、退社。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。また鍋。豆腐、豚肉、小松菜、しめじ、えのきの水炊き。自家製のポン酢にて。白ワインを一杯だけ。あとは饂飩にした。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)の「ロシア短篇集」の巻より、ドストエフスキー作「鰐 — ある異常な出来事、或いはアーケード街の珍事」(望月哲男訳)。同僚の老官僚との対話の馬鹿馬鹿しさが特に面白いはずなのだが、大学の事務も同じくらゐ馬鹿馬鹿しいことがあるので、むしろデジャヴュの感。

それはさておき、ロシアを代表する三篇を選んだうちの一つがこの「鰐」と言ふところがいかにもボルヘスらしい。あとの二つは、アンドレーエフ「ラザロ」とトルストイ「イヴァン・イリイチの死」。

2016/10/31

常夜鍋

また月曜日。大寢坊して、勉強の時間はほとんどとれず。しかし、何もしないよりはまし、勉強と仕事は儀式のやうに毎日することが奥義、と言ふ信念のもと、ラテン語は文を二つ解釈し、數學基礎論は選択公理のところを十行ほど讀んだ。

いつもの時間に出社し、いつもの時間に退社。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。豚肉と小松菜の常夜鍋。ワインを一杯だけ。そのあとの雑炊。雑炊は最高。今日は一日首筋のあたりがぞくぞくして、少し風邪気味のやうな氣がしてゐたが、撃退できたかも。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)より「千夜一夜物語 バートン版」(由良君美訳)など。

2016/10/30

日曜日

猫が寒さうにしてゐるので、そろそろホットマット(人間用の座ホットマットを利用)を出してやるかなあ、と思ふ週末。

朝食は、昨日と正確に同じ、チアシード入りのヨーグルト、チリビーンズ、キヌア、目玉焼き、珈琲。朝風呂の湯船で "The importance of living" (Lin Yutang / Harper)を讀む。

雑用をしてゐるうちに晝になり晝食は、玉葱とツナのカレー風味のサラダ、明太子のフェデリーニ、スペイン産の白ワインを一杯だけ。のち、ワインの殘りでカマンベールチーズの燻製を一切れ。腹ごなしに近所の図書館まで本を返しに行くついでの散歩。歸宅して家事と讀書。Lin Yutang の續きや、「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文 / 国書刊行会)のヘンリー・ジェイムズの巻「友だちの友だち」など。

夕方になつてまづ風呂。湯船の讀書は「茶話」(薄田泣菫著/冨山房百科文庫)。夕食の支度。南瓜の煮付け、だし巻き、鯵のひらき、豆腐と糸寒天の味噌汁、押し麦入りの御飯。良い週末だつた。さて、また明日からお勤めだ。


2016/10/29

「ノースモア卿夫妻の転落」

寢坊。秋立ちて幾日もあらねどこの寢ぬる朝明の風はたもと寒しも。洗濯をしてから、朝食の支度。チアシード入りのヨーグルト、チリビーンズ、キヌア、目玉焼き、珈琲。朝風呂。湯船の讀書は、 "The importance of living" (Lin Yutang / Harper).

ぼうつとしてゐるうちに晝になり、午餐の支度。肉がないので牛モツを少し使つて、お好み焼き。チーズを切つて、ワインを一杯だけ。食後に少し晝寢を、と思つて寢台に横になつたら二時間以上寢てしまつた。秋の日は釣瓶落とし。夕食の時間まで、「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文/国書刊行会)のヘンリー・ジェイムズの巻「友だちの友だち」から、「ノースモア卿夫妻の転落」(大津栄一郎訳)を讀む。

有名政治家ノースモア卿が死ぬ。續いて、卿の旧友でライヴァルでありながら、その影に隠れるやうに何の成功も手に出來なかつたホープ氏も亡くなる。遺されたホープ夫人は人生が不公正であるやうな複雑な気持ちを抱く。そこに卿の書簡集出版の企画が持ち上がり、卿夫人からホープ夫人のところにも卿の手紙が保存されてゐないかと連絡が來る。実際、氏は卿からの大量の手紙を全て保存してゐた。夫人はどう返事するか悩む……と言ふやうなお話。一種の復讐譚だが、意地の惡さと精密な心理描写のメスが、凡庸さ、才能、成功、幸福と言つた大文字の問題に、一つの角度から鮮やかな手並みで触れてゐる感じ。

夕餉の支度。牛モツの殘りを使つてモツ鍋。ワインを一杯だけ。あとは雑炊にした。雑炊最高。「ノースモア卿夫妻の転落」に感動したので、同書よりさらに一篇「私的生活」を讀む夜。

優れた随筆を讀むと、これは面白いことを聞いたわいと嬉しくなつたり、良い山水の風景でも見たやうに心がふと靜かになつたりするものだが、優れた短篇小説は讀後、自然に頭が下がると言ふか、感謝したいやうな氣持ちになる。


2016/10/28

猫が丸い

午後から急に気温が下がり、冷たい雨になつたやうだ。廊下ですれ違つた外からのお客様たちが冷たい雨粒を肩から払ひながら寒さうにしてゐる。

いつもの時間に退社。確かに外は冷たい雨。歸宅してまづ風呂に入り、身体をあたためる。湯上がりに、ぬる燗の酒を五勺とお土産の握り鮨。やれやれ今週も何とか無事で過せて良かつた。

林語堂の "The Importance of Living" を讀む夜。冬に向けてか、猫が丸くなつてきた。雲門自代云、日々是好日。

2016/10/27

ぬる燗

いつも通りの時間に出社、退社。歸宅してまづ風呂。湯船の讀書は "The Paper Thunderbolt" (M.Innes / Penguin). 三分の一を越したあたりで漸く、サー・ジョン・アプルビイの登場。第一部から逃げまわつてゐる小悪党と関係があるのかないのか、オックスフォードでは学生が失踪、アプルビイが相談を受ける。

夕食の支度。南瓜の煮付けと明太子だし巻きで、ぬる燗の酒を五勺。我ながら明太子だし巻き、うまいなあ。のち、うな茶。うな茶も良い。

夜の讀書は "The importance of living" (Lin Yutang / Harper)など。日本人には Lin Yutang よりも林語堂と書く方がお馴染だらう。この本は中国語から英訳されたのかと思つてゐたのだが、最初から英語人に向けて英語で書かれたらしい。

この手の本を英語で讀むときに悩ましいのは、固有名詞の英語-漢字対応が分からないことだ。例へば T'ao Yüanming と書かれてゐるのが、陶淵明のことだとなかなか気付かない。漢字を併記してもらへないものか。

2016/10/26

禁酒自慢

また夏日。涼しい國に引つ越したいなあ。往きの車中の源氏物語は「藤裏葉」の帖を終へて、「源氏物語」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)の第五巻を讀了。

いつもと同じ時間に出社、退社。歸宅して、まづ風呂。湯船で "The Paper Thunderbolt" (M.Innes / Penguin) を讀む。まだ全体の三分の一強くらゐ。通勤で源氏物語を讀み切れるのか、湯船でこれを讀み切れるのか、見込は同程度かも知れない。

夕食の支度。五目焼きそばでビール。ソース焼きそばも悪くはないが、最近の私は塩とだしで味つけした白つぽい五目焼きそばが口に合ふやうになつてきた。閑話休題(それはさておき)、ビールがうまい。同僚が、最近体調が良いのは酒を控へてゐるからに違ひない、と自慢してゐた。更年期障害で腰痛で痛風で老眼の私には耳の痛いお説ながら、この老いぼれから酒を取り上げたら、日々の樂しみなんてないも同然なので聞き流すのみ。

夜は「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂/序文、国書刊行会)より、マイリンク「ナペルス枢機卿」の巻を讀んだり。

2016/10/25

リチュアル

また寢坊してしまひ、ラテン語の勉強時間を縮小。日々、体力と知力と気力が減退して行く年頃になつてなおさら思ふのだが、少しづつを毎日續ける、と言ふのが、この短い人生で何事かを成し遂げる唯一のコツだ。ただし実行するのは非常に難しいのだが、不思議なことに、歳をとるに連れこれが易しくなつて來る。人生の皮肉だらうか。

小雨そぼ降る中を歸宅して、まづ風呂。料理をする気力がなく、作りおきのチリビーンズを温めて、ワインを一杯だけ。そのあと、葱と胡麻油で簡単なスープを作り、出来合いの焼き餃子と。

「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂/序文、国書刊行会)より、昨日は E.A.ポー「盗まれた手紙」の巻から「群集の人」などを讀んだので、今夜はマイリンク「ナペルス枢機卿」の巻。

2016/10/24

鰻と長葱のざくざく

さて、また月曜日だ。今週も何事もなく過せれば良いのだが。往きの車中の「源氏物語」は「藤裏葉」の帖。光源氏が夕霧に教訓を垂れてゐる。おまへが言ふな、と言ふ氣もするが、経験者は語る、なのかも知れぬ。

夕方いつもと同じ時間に退社。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。鰻の殘りと長葱を適当にざく切りして山葵を添へる。私は「ざくざく」と呼んでゐる。呼んではゐるが語る相手はゐないので、猫に「今日はざくざくで一杯やるとするか」などと言ふのである。ワインを一杯だけ。のち、雑炊を作る。もつ鍋のスープを使つて、具は卵と葱とえのき。うまい。明日も頑張りませう。

夜は「茶話」(薄田泣菫著/冨山房百科文庫)を讀んだり。

2016/10/23

紅楼夢ともつ鍋

日曜日。いつもの通り家事と讀書の一日。「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂/序文、国書刊行会)より、昨日はメルヴィル「代書人バートルビー」の巻を讀み、今日は蒲松齢「聊斎志異」の巻を讀んだ。

蒲松齢の巻は「聊斎志異」から短い話をいくつか収めてあるのだが、最後に曹雪芹の「紅楼夢」からの二篇も含まれてゐる。興味深いのは、ボルヘスが大長編「紅楼夢」(岩波文庫版の翻訳で全十二巻)からたつた數ページ抽出したのがこの二箇所だと言ふところ。

今日のメインイベントはもつ鍋。意地汚いやうだが數日前から樂しみにしてゐた。夕方、牛もつを洗ひ直すところから。キャベツ、韮、もやし、牛蒡、大蒜チップ。ラングドックの安いソーヴィニヨン・ブラン。のち、ちゃんぽん麺。満足。これでまた一週間がんばれさう。


2016/10/22

蒲焼の長命術

洗濯などの家事をしてから、午前中は定例のデリバティブ研究部会自主ゼミ。重川「確率解析」より、Ornstein-Uhlenbeck 半群の超縮小性、対数ソボレフ不等式など。K さんによる安定した講義。午後に仕事があつたのでランチは失礼して帰る。

夕食はいただきものの鰻の蒲焼、南瓜の煮付け、沢庵、豆腐と葱の澄まし汁。折角の鰻丼だから、久しぶりに白米を炊く。私は普段、押し麦との三七なのである。いやもう、銀シャリとは良く言つたもので、目に眩しいくらゐだし、無闇に美味しい。世間の人々が太り過ぎてゐるのはきつとこのせゐだらう。

ところで、もちろん鰻の蒲焼は焼き立てが美味しいのであつて、通は鰻を割くところから(一杯やりながら)焼き上がりを待つのだが、我々下々の民草が口にするのは大抵、冷たくなつたものでゐる。それを美味しく食べる方法が「味覚極楽」(子母澤寛著/中公文庫)に、竹越三叉(竹越與三郎)からの聞書として出てゐる。

曰く、まづ土鍋にいい酒を入れて、強い火にかける。箸でかきまぜてゐると、アルコール分が立つてくるから、マッチで火をつける。ぽつと燃えるわけだがすぐに消えるので、これを火がつかなくなるまで繰り返す。この熱いところに蒲焼を入れて一分。できあがり、と言ふ段取りである。

マッチで火をつけるのが面倒だが、要はアルコールを飛ばせばいいのだらうから、私は単に煮切つてゐる。「土鍋」がポイントなのかどうかは不明。私はまじなひのつもりで小型の土鍋を使つてゐる。「いい酒」は大事。ちなみに、私の経験では、冷凍の鰻でも同じ方法でなかなか美味しくできる。

2016/10/21

週末のペールエール

往きの車中の「源氏物語」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)は「梅枝」から「藤裏葉」の帖へ。幼馴染の夕霧と雲居雁の恋の行方。

夕方退社。歸りの車中では「標的」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)。今回の主人公はサヴァイヴァルの専門家だが駆け出しの小説家でもあると言ふ設定。有名調教師の伝記を書くことを引き受ける。毎回、次々と良く考へるなあ、と思ふのと、さうまでして競馬につなげるか、と思ふのとは変はらない。

今週も良く働いた。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。レバ韮炒めと焼き餃子でペールエール(``Bass")を一本だけ。やはり週末のビールはいい。

2016/10/20

チリビーンズ

また夏日。涼しい国に引つ越したいなあ。今日は家に歸つたらチリビーンズを作ることを樂しみに、一日仕事に励む。

夕方退社。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。作り方は知らないが食べたことは何度もあるので、きつと何とかなるだらう、と適当にチリビーンズを作つてみる。葱焼豚でワインを一杯だけ。のち、チリビーンズ、パン・ド・カンパーニュ、カチョカヴァロ(チーズ)、バナナ。チリビーンズは味つけがややあつさり過ぎたやうだが、なかなか美味しかつた。

最近、寢る前の樂しみに「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂/序文、国書刊行会)から短篇を一つ二つ讀むことにしてゐる。一昨日はオスカー・ワイルドの「アーサー・サヴィル卿の犯罪」、昨日はヴォルテールの「慰められた二人」、今日は H.G.ウェルズ。明日は H.メルヴィルの予定。

2016/10/19

ゴールドベルク変奏曲

毎朝、ゴールドベルク変奏曲を聞きながら朝食の支度をしたりあれこれをしてゐたのだが、何ヶ月も聞き續けてゐると流石に飽きて來たので、イギリス組曲に変へてみた。新鮮。しかし数ヶ月、ゴールドベルクに耐へられたのは流石と言ふべきで、確かシモーヌ・ヴェイユだつたと思ふのだが、賛美歌の類が美しいのは毎日同じ歌を歌はなければいけないから美しくならざるを得なかつたのだ、と書いてゐたのを思ひ出した。

夕方、親会社の全体会議のあと退社。少し遅くなつたので、歸宅してすぐに夕食の支度。人参のサラダ、キャベツとアンチョビのフェデリーニ、豚ヒレ肉のソテー、ワインを少々。

これから風呂に入つて、書き物仕事をして、できればマクロ経済学の勉強もしたいのだが、ロングスリーパーの私にはそれぞれ 30 分づつくらゐしか時間を割けさうにない。

2016/10/18

生臭

月に二度の精進日。精進日の朝は味噌汁も昆布だしである。朝食といつもの勉強ののち出勤。通勤電車は生臭どもばかりで閉口ぢや。くさくてかなはん。それに肉食するものの目玉をよくよく見ると、けものに似た光を放つてをる。従つて心もぢや。三千年前に釈尊が、肉を食ふと慈愛の心がなくなると説かれたのはここぢや。と、「味覚極楽」(子母沢寛著/中公文庫)の増上寺大僧正道重信教氏を心の中で真似ながら出社。


2016/10/17

肉南蛮

また月曜日。夏の疲れなのか体調よろしからず。眠くて仕方がないし、腰は痛いし、身体は怠いし、うちの老猫より長生きできるか心配になつて來た。

寢坊したのでラテン語の勉強は単語帳をさらふだけ。「キューネン 数学基礎論講義」(K.キューネン著/藤田博司訳/日本評論社)は順序数についての再帰のところ。一日最大 30 分なので、なかなか進まない。

夕方退社して歸宅。まづ風呂。湯船の讀書は "The Paper Thunderbolt" (M.Innes / Penguin). オックスフォードに遁れて一安心と思つた Routh にまた追手。またバスに乗つて振り切つたと思つたらそこにも追手が。たまたま横に座つた、老人ボケした引退教授(私のことではない)に昔の教へ子と勘違ひされて話しかけられつつ、逃亡のチャンスを探す……と言ふところ。この本もせいぜい一日數ページなのでなかなか進まない。

風呂に入つてから夕食の支度。豆と人参と若布の煮物、葱焼豚に胡麻油でワインを一杯だけ。のち、豚ヒレ肉で肉南蛮。鴨にしたかつたところだが予算の都合で。夜はスピノザ研究など。

2016/10/16

「アラジンの奇跡のランプ」

日曜日は、家事と讀書の一日。いつものやうに 6 時には起きて、休日用の簡単な朝食。パンを少し焼いてバタと、いただきものの葡萄で作つたジャム、ヨーグルト、珈琲。午前中は大豆を人参と昆布と煮たり、料理を少し仕込んでのち、小一時間ほど書き物仕事。

晝食はお好み焼きでワインを一杯だけ。チーズを少し。食休みに少し横になろうと思つたら、二時間ほど熟睡してしまふ。その後、三時の珈琲とショートブレッドで目を覚まして、家事のあれこれ。夕方になり、風呂に入つてから夕食の支度。豚肉を焼いて、キャベツの千切り、麦入り御飯、豚汁。

ボルヘス編纂の「バベルの図書館」より「千夜一夜物語 ガラン版」(井上輝夫訳/国書刊行会」を讀む。前に讀んだはずだがすつかり忘れてゐて、アラジンと魔法のランプの物語が原文には含まれておらず(おそらく)ガランの創作であると知つて驚く。それに、物語の舞台が中国であることにも驚いた(もちろん中国にも回教徒が沢山ゐることは知つてゐるが……)。アラジンの魔法のランプは、なんと「中国の真ん中」に埋められてゐたのだ。それをアフリカの悪い魔法使ひが探しに來る。フランス人のガランにとつてみれば、アフリカもインドも中国も日本も一まとめにオリエントであり、アラビアン・ナイトの世界なのだらう。

ちなみに「バベルの図書館」では、ガラン版とバートン版が別の巻になつてゐて、ガラン版には「盲人ババ・アブダラの物語」と「アラジンの奇跡のランプ」が、バートン版には「ユダヤ人の医者の物語」と「蛇の女王」が選ばれてゐる。


2016/10/15

芸術祭十月大歌舞伎

一合ほどワインを詰めた水筒を持つて出て、木挽町辨松で幕の内弁当を買ひ、歌舞伎座へ。晝の部を観劇。

橋之助の芝翫襲名の他、お子さんたちが橋之助、福之助、歌之助をそれぞれ襲名。夜の部は襲名披露の口上がある他、玉三郎が藤娘を踊つたりするのでほとんど席がとれないやうだが、晝の部は比較的空いてゐる。団体客も多いやうだ。

今回襲名の橋之助、福之助、歌之助三人で新作舞踊の「初帆上成駒宝船」から。續いて、七之助が巴御前を演じる「女暫」、児太郎がお染、松也が久松の「浮塒鷗」、芝翫が幡随長兵衛、菊五郎が水野十郎左衛門の「極付 幡随長兵衛」より「公平法問諍」。

七之助は声がもう一つ好みではないと思つてゐたのだが、今日、二階桟敷が西側しかとれなかつたので、花道でのやりとりを声だけで聞いてゐたら、意外に良く思へてきた。私が慣れてきただけかも知れないが。「公平法問諍」は始めの劇中劇の趣向がちよつと面白い。それはさておき、橋之助が芝翫だといふのがまだピンと來ない。女形と立役の違ひのせゐかも知れないが、今のところ親分役くらゐが丁度良い感じ。

祝ひ幕は有名デザイナ作だし、襲名祝ひの絵馬は芸能人の名前が目立つし、現代的な襲名披露と言へようか。最近は襲名続きのせゐか、歌舞伎は襲名ビジネスだなあと思へてしまふ。

2016/10/14

金曜日の夜

また週末に辿り着いた。今週は平日が一日少かつたはずなのだが、妙に長く感じた。夏の疲れと言ふものだらうか。

夕方退社、歸宅してまず風呂。湯船の讀書は ``The Paper Thunderbolt" (M.Innes / Penguin). 舞台がオックスフォードに移り、話がどこへ進むのかと思ひ出したころに、主人公らしき逃亡中 Routh の乗つたバスがオックスフォードに到着。Gloucester Green とか懐しいなあ。

平日の夜は夕食と就寢までの間に一時間程度、書き物仕事をしようと思つてゐるのだが、なかなか難しい。昼間大した仕事はしてゐないのに、やはり夜になると疲れてゐて、少し酒を飲んだら既にやる氣がしない。飲まなければ良いのだが、そこはそれ、飲まずして何の人生ぞ。やはり朝にもつと早起きして仕事の時間を作るべきだらうか。ロングスリーパーの私ですら、老いるに連れて早起きが楽になつて來てはいるので、その方が合理的かも知れない。

やはり夜はプルタルコスなり、ディオゲネス=ラエルティウスなり、モンテーニュの「エセー」なりを讀んで靜かに暮したい。

2016/10/13

普通の木曜日

いつものやうに寢床で「古楽の楽しみ」を聴く。今週はイギリス組曲の特集だつた。猫に水とキャットフードを与へて、ヨーグルトを食べてから自分の朝食の支度をする。弁当も作り、三十分づつラテン語と數學基礎論の勉強をしてから出勤。

今日も色々あつたけど、何とか無事に歸宅。風呂に入つてから夕餉の支度。南瓜の煮付け、長葱の網焼きに味噌でワインを一杯だけ。のち、卵かけ御飯、豚汁。

夜は小一時間ほど書き物仕事。そのあと寢床でモンテーニュの「エセー」などを樂しんでから就寢の予定。

2016/10/12

戒律

月例の精進日。肉食を断ち、五葷を避け、何事にも心靜かに過すやう心掛ける一日である。朝食の味噌汁も昆布だしで。

夕方退社。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。南瓜の煮付けで冷酒を五勺。のち、高野豆腐としめじと若布の煮物、沢庵、麦入り御飯。スモークトチーズで白ワインを少々。精進日なので禁酒した方が良いやうな氣もするが、様々な戒律の中で飲酒は一番罪のないものだと思ふので、一つくらゐの破戒は許すことにしてゐる。人間に完璧を求めることはむしろよろしくない。

夜は古本屋から届いた「随園食単」(袁枚著/青木正児訳注/岩波文庫)を讀んだり。

2016/10/11

真木柱

曇り空。漸く少し涼しくなつてきた。往きの車中の「源氏物語」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)は「藤袴」から「真木柱」の帖へ。玉葛が色々あつた末に髭黒と結婚。今日は朝から会議やらミーティングが四つ。夕方、いつもよりやや遅く退社。歸りの車中の讀書は「標的」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)。R.ヒルを一冊讀み終えたので、またディック・フランシスに戻る。

今日は少し遅くなつたので、歸宅してすぐに夕食の支度。南瓜の煮付けと鯵の味醂干しで冷酒をかつきり五勺。今日も何とか酒にありついた。のち、山葵丼と豚汁。明日は月例の精進日なので、その仕込み。

夜に一時間だけ書き物仕事のスケジュールだが、今日はもう疲れたので、なしにしておく。これから風呂に入つたら、「エセー」(モンテーニュ著/宮下志郎訳/白水社)でも讀んで、就寢の予定。

2016/10/10

自づから明らか

祝日で休みだが、いつもの平日の通り、朝食のあと "Wheelock's Latin" と「キューネン 数学基礎論」を三十分づつ勉強する。基礎論は順序數のあたり。ほとんど自明なことをさらに自明なことから証明するのが難しい。つまり、どちらがより自明だつたか混乱してくるのだ。晝までは書き物仕事をする。

晝食は人参のサラダとレトルトのカレーでカレーライス。赤ワインを一杯だけ。少し晝寢をしてから、午後も少し仕事の続き。涼しいし、猫は丸くなつて寝てゐるし、靜かで穏やかな良い日である。

夕食は鯵の味醂干し、南瓜の煮付け、麦入り御飯、豚汁。夜は「エセー」(モンテーニュ著/宮下志郎訳/白水社)より「空しさについて」を讀んだり。

2016/10/09

雨と讀書と酒

朝から雨が降つてゐる。朝食はチアシード入りのヨーグルト、目玉焼きにボローニャソーセージとじゃがいもの酢漬け、トーストにバタと手製の葡萄ジャム、珈琲。朝風呂に入つて、湯船で吉田健一の文章を讀む。午前中は窓から雨など見ながら、ぼうつとしてゐる間に過ぎる。

昼食は人参のサラダを作つて、キヌアとチリビーンズに添える。スモークトチーズ、白ワインを一杯だけ。午後は、通勤の車中で讀んでゐる「死の笑話集」(R.ヒル著/松下祥子訳/ハヤカワ・ミステリ 1761)の最後の五分の一を一気に讀む。讀了。ヒルは後期に入つてもう一つだなあ、と思つてゐたのだが、「死者との対話」と「死の笑話集」の連作は樂しめた。蛇のやうに長過ぎる、とは思ふが。

夕方になり、家事をあれこれ片付けて、再び風呂に入つてから夕食の支度。南瓜の煮ものと納豆で「賀茂鶴」大吟醸を五勺飲みながら、「中華飲酒詩選」(青木正児著/東洋文庫 773)を讀む。青木先生もおつしやつてゐたさうだが、やはり酒を飲むには李白だ。のち、山葵丼と豚汁。暇で静かで良い一日である。


2016/10/08

土曜日

午前中は定例のデリバティブ研究部会自主ゼミ。「確率解析」(重川一郎著/岩波書店)より、Ornstein-Uhlenbeck 半群とその生成作用素の固有値と固有関数、対称性などについて。家で用があつたので、そのあとのランチは遠慮させていただいて歸宅。晝食はお好み焼きとビール。午後は概ね、書き物と讀書。

夕方風呂に入つてから、夕食の支度。ちりめんじやこ大根おろし、鯵の味醂干し、南瓜の煮付け、白菜の浅漬、麦入りの御飯、豚汁。


2016/10/07

ボーモント通り

朝はかなり涼しかつた。漸くに真夏日は去つたやうだが、今日も夏日だし、先にまだ夏日の予報が出てゐる。

夕方退社。兎に角、週末に辿り着いた。帰り道で ``All 4 Love" と言ふ変な名前の薔薇を買ひ、お土産の握り鮨を買つて歸宅。まづ風呂。湯船の讀書はいつものやうに ``The Paper Thunderbolt" (M.Innes / Penguin). 主人公らしき小悪党ルースが逃げに逃げ、最後はバスに逃げ込んで敵を振り切つたのだが、その行く先はオックスフォード。と、判明したところで、第三部に入つた。舞台はオックスフォードに移り、Beaumont street で大学人たちが会話してゐる。アシュモレアン博物館のある通りだ。随分とイネスらしくなつてきた。

風呂から上がつて、夕食。握り鮨で冷酒を一合ほど。この週末は三連休なので、ゆつくり「人間の絆」(S.モーム著/中野好夫訳/新潮文庫)でも読もうと思つてゐる。

2016/10/06

0から7まで

また真夏日。しかし、いつもの通りに朝食、弁当作り、ラテン語と數學基礎論の勉強。基礎論は漸く、0 から 7 までの數が定義されたが、7 までの數だけでは言ふまでもなく……面白い數學をするのは難しい。先は長い。

いつもと同じ時間に出勤。日差しが厳しい上に、颱風の影響なのだらうか、湿度が高くて非常に不快。今度こそこれが最後の夏の出勤日だらう、と信じたい。

夕方退社。歸宅して風呂に入つてから、夕食の支度。人参とちりめんじやこの寒天寄せでワインを一杯だけ。續いて、スクランブルドエッグとボローニャソーセージ、チリビーンズ、キヌア。

2016/10/05

小食

気温は低いが、颱風の影響だらうか湿度が高いやうで、蒸し暑い。明日はまた真夏日ださうだ。明日こそ最後だと信じたい。

歸宅して、風呂に入つてから夕食の支度。冷奴、人参とちりめんじやこの寒天寄せ、鱧蒲鉾の板山葵で冷酒を五勺。のち、若布と鱧蒲鉾の煮麺(一把)。

日常に原稿書きの仕事が追加されたのだが、夕食の後から寢るまでの間しか、そのための時間がない。しかし、食べるとしばらく頭が働かないし、私は 22 時には既に眠つているロングスリーパーだ。止むを得ず、夕食の量を減らして、寢るまでにどうにか小一時間確保することにした。歳のせゐで小食になつて來てゐるので、丁度良いかも知れない。

2016/10/04

梨と夜風

真夏日。これが最後かと思つたら、予報によれば明後日も真夏日らしい。お天道様に愚痴の一つも言ひたくなるが、そこはぐつと我慢して、「唐獅子牡丹」を口遊みながら出勤。朧月でも墨田の水に昔ながらの濁らぬ光。

夕方退社して歸宅。まづ風呂。湯船では "The Paper Thunderbolt" (M.Innes / Penguin) を讀んでゐるのだが、当然ながら一回に精々 2, 3 ページしか進まないので、良く分からない。今のところ主人公の詐欺師か何かの小悪党が、謎の研究所のやうなところに偶然入り込み、そのあとそこから逃げて、逃げて、逃げ續け、今はダブルデッカ(バス)に乗つて逃げてゐる。

夕食の支度。じゃが芋の酢漬けにオリーヴオイルで、ワインを一杯。その間にキヌアを炊いて、缶詰のチリビーンズ。ワインの殘りでチーズの燻製を少しだけ。のち、いただきものの梨を剥く。夜風は涼しくないでもない。

2016/10/03

月曜日

月曜日。また一週間の始まり。いつもの納豆定食の朝食のあと、三十分づつラテン語と、「キューネン 数学基礎論講義」(K.キューネン著/藤田博司訳/日本評論社)を勉強して、出勤。今日も涼しい。しかし、明日は台風の影響だろうか、また真夏日。いいかげんにしていただきたいものだが、去り行く最後の夏の出勤だと思へばそれもまた良い思ひ出……にはならないか。

いつも通り夕方退社して歸宅。風呂に入つてから夕食の支度。冷奴と鱧の板山葵で冷酒を五勺。のち、豚肉の付け焼きとキャベツ千切り。鱧蒲鉾と若布の煮麺。夜は讀書と少し書き物仕事など。

2016/10/02

日曜日

今日も良く寝た。休日用の簡易朝食として、ヨーグルト、柿を一つ、トーストにバタ、珈琲。朝風呂に入つてから、午前中は原稿書きと、「人間の絆」(S.モーム著/中野好夫訳/新潮文庫)。散歩がてら図書館に本を返しに行き、卵と豆腐とビールを買つて歸宅。

晝食は缶詰のチリビーンズに、目玉焼き、じゃが芋の酢漬け、キヌアを添へて、ビール。三時にショートブレッドと葡萄のジャム、珈琲。夕方までは主に家事。

夕方また風呂に入つてのち、夕食の支度。「酒肴酒」(吉田健一著/光文社文庫)を讀みながら、鱧の板山葵と冷奴で冷酒を五勺。のち、インスタントラーメンをベースにして湯麺を作る。これは食べ過ぎだつた。最近の私はもう、夜にはあまり食べられなくなつてゐる。簡単な晩酌のあと、小さな茶碗のお茶漬けで十分なくらゐ。氣をつけよう。

吉田健一は「理想は、酒ばかり飲んでいる身分になることで、次には、酒を飲まなくても飲んでいるのと同じ状態に達することである」と書いてゐるが、全くその通りだと思ふ。第一の理想はさして難しくないし、この私ですら遠からず叶ひそうだが、第二の状態はかなり難しく、男子一生の仕事かと思はれる。


2016/10/01

「死んで貰います」


また寢坊。元からロングスリーパーなのに、朝夕涼しくなつてきたおかげで良く眠れ過ぎて困る。週末用の簡易版の朝食のあと、朝風呂。

晝食は土曜日の定番でお好み焼き。午後は主に料理の仕込み。いただきものの果物をなかなか消費できないので、ジャムを作る。味見のため、三時にショートブレッドに葡萄のジャムを添へて、珈琲。悪くない。他にじゃが芋を茹でて酢漬けしたり。

夕食は豚肉と野菜を蒸して大根おろしポン酢で、のち、白菜の浅漬、人参とちりめんじやこの寒天寄せ、押し麦入りの御飯、石蓴の味噌汁。

夜は「昭和残侠伝 死んで貰います」(マキノ雅弘監督 / 1970年)を観たり。泣かせるツボの連打に次ぐ連打で出來てゐて、お約束と様式美の極致。主演は高倉健なのだが、池部良の格好良さと演技力で支へられた映画である。そして、辰巳芸者を演じる藤純子(富司純子)が怖いくらゐに綺麗。郷里贔屓で言ふのではなく素直に、昔の日本には美人がゐたものだなあ、と思ふ。いや、たまに歌舞伎座の入口あたりでお見掛けはするし、今でもお美しいので、「昔の」なんて失礼だが。

2016/09/30

週末の晩酌

涼しい。夕方、本郷で一つ所用を片付けて、徒歩にて歸宅。遅くなつたので、すぐに晩酌の支度。

白菜の浅漬、人参とちりめんじやこの寒天寄せ、納豆に焼き海苔で、いただきものの「賀茂鶴」大吟醸を一合ほど。鮭の握り鮨。食後にいただきものの葡萄を數粒。

涼しい秋風に冷酒で口を湿す夜。

2016/09/29

真昼の悪魔

今日も少し寢坊。とは言へ、朝食のあと、ラテン語の単語カードを作り(代名詞 hic, ille, iste の活用)、「キューネン 数学基礎論講義」(K.キューネン著/藤田博司訳/日本評論社)を少し讀み進め、いつも通りに出勤する。いつも通りに退社して歸宅。朝と違つて秋らしい涼しさを感じる。天気予報によれば、まだまだ先まで夏日が續いてゐるが、朝夕には秋が訪れつつあるのかも。

歸宅して風呂に入つてから晩酌。ちりめんじやこ大根おろしと鱧の板山葵で冷酒を五勺。最近、辛口の大根おろしがないとお歎きの私だつたのだが、これは辛い。のち、素麺一把を煮麺にする。具は鱧の蒲鉾、人参、若布。だしの殘りは寒天で固めて煮凝りにしておく。食後にいただきものの葡萄を數粒。

夜は「退屈 息もつかせぬその歴史」(P.トゥーヒー著/篠儀直子訳/青土社)を讀む。エヴァグリオス「八つの悪しき考えについて」より「真昼の悪魔」、すなはち「怠惰(acedia)の悪魔」についての引用を巡る考察の箇所。

2016/09/28

賀茂鶴

酷い蒸し暑さ。秋はいづこに。先週は祝日が多かつたからだろうが、今週は日が経つのが遅い。まだ水曜日だなんて、一体どういふことでせう。

いつも通りに歸宅。夕食の前に前菜としての晩酌。鱧の蒲鉾で板山葵。酒を少々。いただきものの「賀茂鶴」大吟醸を冷やで。漸くほつと一息つく。最近、酒量が増えてゐるやうな。氣をつけよう。

2016/09/27

キヌア

今日も蒸し暑い。秋はいづこへ。往きの車中の「源氏物語」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)は第五巻に入つた。「蛍」の帖。玉葛に養父、光源氏の魔の手が迫る。「親にそむける子ぞ類なき」と迫る光源氏、「この世にかかる親の心は」と躱す玉葛。

歸りは「死の笑話集」(R.ヒル著/松下祥子訳/ハヤカワ・ミステリ 1761)。歸宅して先に夕食の支度。少し遅くなつたので、作りおきのキヌアに昨日のレバニラ炒めの殘りを添へただけ。赤ワインを少々。キヌアも言はゆる「スーパーフード」らしい。もちろん、いただきもの。食後に、これまたいただきものの葡萄を數粒。

これから風呂に入つてのち、「退屈 息もつかせぬその歴史」(P.トゥーヒー著/篠儀直子訳/青土社)を讀んで寢る予定。

2016/09/26

第0章

寢坊して「古楽の楽しみ」を聞き逃した。いつもの朝食のあと、ラテン語の勉強をして、そのあとの初歩の數學の勉強は、今日から「キューネン 数学基礎論講義」(K.キューネン著/藤田博司訳/日本評論社)。線型代數と違つて基礎論はほとんど何も知らないので樂しみ。とりあへず今日は「第 0 章 導入」を讀み終へた。

寝不足と変な蒸し暑さで体調が酷く悪い氣がするのだが、いつも通りに出勤、いつも通りに退社。歸宅して、風呂に入つてから夕食の支度。この蒸し暑い気候に合はせようと思つて、レバニラ炒めと焼き餃子でギネスのエクストラ・スタウトを 1 パイント。食後にいただきものの葡萄を少し。

夜は、「退屈 息もつかせぬその歴史」(P.トゥーヒー著/篠儀直子訳/青土社)を讀む。

2016/09/25

退屈

家事と讀書の一日。「退屈の小さな哲学」(L.スヴェンセン著/鳥取絹子訳/集英社新書)、「退屈 息もつかせぬその歴史」(P.トゥーヒー著/篠儀直子訳/青土社)など。この頃の私は、閑暇と労働、孤独と退屈などに就て集中的に考へてゐるので、その一環として。

涼しい夜。生キャベツにいりこ味噌、茄子の田舎煮、鱧の板山葵で冷酒を五勺。のち、鮭茶漬。食後にいただきものの葡萄を少々。「退屈の小さな哲学」を讀みながら。


2016/09/24

サミング・アップ

いつもより少し遅く起きて、休日用の朝食。ヨーグルト(チアシード入り)、小さなトースト一枚にバタ、スクランブルドエッグ、ボローニャソーセージ、キャベツの炒めもの、珈琲。

午前中は定例のデリバティブ研究部会自主ゼミに参加。「確率解析」(重川一郎著/岩波書店)より Ornstein-Uhlenbech 過程について K さんの発表。流石、良く準備された講義のやうに軽快だつた。ゼミ参加者によるランチはベトナム料理。ブンボーフエ、生春巻、ちまきなど。

図書館で「退屈」に就て調査をし、何冊か本を借り、スーパーで山葵を買つて帰宅。午後は「サミング・アップ」(S.モーム著/行方昭夫訳/岩波文庫)の續きを讀む。三時にいただきものの洋菓子で珈琲。

夕食は筑前煮、茄子の田舎煮、白菜の浅漬、押し麦入りの御飯、豚汁。夜も少しワインを飲みながら、「サミング・アップ」を讀む。讀了。充実した夜だつた。私にとつてモームは長い間、古い受験英語参考書にやたらと出てきて、人間と人生の真相を皮肉に語る、やや通俗的な作家、と言ふ程度だつた。今でも偉大な小説家とまでは思へない。ただし、その率直さ、明解さ、玄人のサーヴィス精神に裏打ちされた物語の面白さは、(モーム本人が思つてゐた以上に)、長く愛されて、何度も再發見され續けるのではないかと思ふ。

2016/09/23

Done Right

平日の毎朝、十五分から三十分づつ讀み進めてゐた "Linear Algebra Done Right" (S.Axler / Springer) を讀了。三ヶ月くらいかかつたらうか。この本でとられてゐる方針が線型代數入門の「正しいやり方」か分からないが、少くとも一案かも知れない。

一番驚いたのは、行列式が最後まで出てこないことだ。実際、全 10 章の最終章が "Trace and Determinant" で、そこに至るまで定義すらされない。しかし、私自身、最終章までそのことに気付かなかつたので、行列式が全く出て来ない線型代數入門も自然にありうるのだ、と言ふことは一つの発見だつた。

その意味では、行列式の性質や具体的な計算をごちやごちや教へるのは、線型空間や線型写像、線型作用素の基本的な性質を學ぶべき線型代數入門の本筋ではないのかも知れない。しかし一方では、行列式は非常に不思議で豊かな対象なので、行列式なくして線型代數のどこが面白いのか、と思ふ人もゐるだらう。

いづれにせよ、非常にすつきりと書かれた教科書で、これで線型代數の入門が完了するわけではないが、線型代數の一番大事なところが一筆書きで分かつた、と言ふ氣にさせる入門書である。なお、演習問題が豊富なのも良い。既に入門を通り過ぎた人なら一目で分かる易しい問題が大半だが、おそらく正しいレベル設定である。ちなみに解答はついてゐないが、その選択も正しい。

ところで来週の月曜日からは、「キューネン 数学基礎論講義」(K.キューネン著/藤田博司訳/日本評論社)を平日の毎朝、少しづつ讀んで行く予定。この本を選んだ深い理由はない。単に、基礎論は大學一年生の時に一般教養の「記号論理学」の講義を受けただけで、ほとんど何も知らないので一度勉強してみたかつたのと、たまたま新刊書で見かけたから。

2016/09/22

スーパーフード

秋分でお休み。雨。終日、ゆつくりと「サミング・アップ」(S.モーム著/行方昭夫訳/岩波文庫)を讀んだり。

朝食は、チアシード入りのヨーグルト、小さなトースト一枚にバタ、珈琲。

チアシードはちよつと前から流行してゐる「スーパーフード」らしい。知り合ひが送つてくれたのだが、どんな食べ物でも少し食べる分には身体にとても良い。ただ、流行ものが移り変はつて行く。いづれ径山寺味噌や高野豆腐が、ハリウッドやパリで大流行のスーパーフードになるかも知れない。それはさておき、チアシードは毎朝、有り難くいただいてゐる。小さなタピオカのやうな不思議な食感が面白い。多謝。

晝食はインスタントラーメンを使つて湯麺的なものを作つた。三時にいただきものの洋菓子で珈琲。夕食は、鰯の生姜煮(沢山あるので毎日、食べざるを得ない)と茄子の煮ものを肴に冷酒を五勺。のち、大根おろしにちりめんじやこ、押し麦入りの御飯、豚汁。夜もモームの「サミング・アップ」。味はひ深い。

2016/09/21

秋来たる

いつものやうに夕方退社。かなり涼しい。二千年も待つた氣がするが、漸くに秋らしい。

明日はまた休みなので嬉しい。一日暇なので、モームの「サミング・アップ」(行方昭夫訳/岩波文庫)を読もうと思つてゐて、それが樂しみなのである。

歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。鰯の生姜煮、筑前煮、隠元の胡麻和へで冷酒を五勺。今日も無事に生き延びたことを喜ぶ。のち、大根おろしにちりめんじやこ、焼き海苔、卵かけ御飯、豚汁。食後にモッツァレラの燻製で赤ワインを少しだけ。

2016/09/20

麦飯

強く降りつける雨の中を歸宅し、まづ着替へをする。今日は遅くなつたので、食事から。冷たい前菜を冷蔵庫から皿に移し(隠元の胡麻和へ、人参と隠元の鶏肉巻き)、ワインをグラスに注ぎ、猫を私の椅子から追ひ払ひ、やれやれと一息付く。今日も何とか無事に過せたやうだ。夕食は鰯の生姜煮、豚汁、押し麦二米八の麦飯。麦三か四くらゐでもいいかな。夜は「働くことの哲学」(L.スヴェンセン著/小須田健訳/紀伊國屋書店)など。

2016/09/19

老猫を敬ふ

私のやうな老人が皆から敬はれる記念日らしいが、終日、猫としか話さなかつたし、うちの猫は人間に換算すると私より年上のやうなので、誰からも敬はれない一日。せめて猫を敬ふ。

朝食は平日いつもの納豆定食。そのあといつもの平日のやうに、ラテン語と線型代數の勉強を三十分づつ。出勤する代はりに、午前中は數學を考へる。

昼食はお好み焼きと昨日のシャンパンの殘り。さらに、筑前煮でシャンパンの殘りを飲みつつ、生けた白菊を愛でつつ、労働と閑暇と人生に就て考察する。三時に珈琲といただきものの洋菓子。

夕方風呂に入つてから夕食の支度。筑前煮、豚肉生姜焼きにキャベツの千切り、御飯、ピーマンの味噌汁。

夜は高野豆腐を肴にシャンパンの最後の殘りを飲みつつ、「人間臨終図巻 4」(山田風太郎著/徳間文庫)の「八十九歳で死んだ人々」から「百代で死んだ人々」までを讀む。全巻讀了。最後は泉重千代さんなのだが、この本に挙げるやうな人だらうか、とも思ふ。実際、今の人は泉重千代が誰だか知らないのではないか。おそらく山風先生、最後の一文が書きたかつただけでは。それはさておき、名著である。

2016/09/18

日曜日

精進日。朝食はヨーグルトと、小さなトーストを一枚焼いてバタに珈琲。晝食は海苔巻、稲荷寿司、紅生姜、シャンパンを一杯だけ。海苔巻に蒲鉾が入つてゐるが、まあ少しくらゐは良いだろう。夕食は、高野豆腐と小松菜のひたしと白菜の浅漬でシャンパンを少々。のち、海苔巻と稲荷寿司の残り、紅生姜、石蓴の澄まし汁。

2016/09/17

つくりあほう

ワインを一合ほど水筒に詰め、チーズ一切れを包んで、家を出る。さらに木挽町「辨松」で一番安い赤飯の「幕の内一番」を買ひ、歌舞伎座へ。「秀山祭九月大歌舞伎」の晝の部を観劇。「碁盤忠信」、「太刀盗人」、「一條大蔵譚」。

無能なふりをしてゐるが実はそれは世を欺く仮の姿……と言ふテーマは歌舞伎に良くあるが、一條大蔵卿は無能どころか、藤山寛美のアホ丁稚なみのアホのふりをしてゐる設定。役者はアホを演じる人を演じるわけだが、なかなか難しいと思ふ。大星由良之助のやうな無能なふりや駄目男のふりではなくて、アホのふりなので、どうしても観客まで馬鹿にされてゐるやうな氣になつてしまふ。ここを嫌味なく、品良く、演じるのが難しさうだ。

今回は吉右衛門が演じてゐて、悪くはなかつたが、生まれも育ちも関西の私からしてみれば、まだ嫌味が殘る。アホの真髄は関西人にしか演じられないので、仁左衛門などには一歩譲るのではないかと思ふ。

2016/09/16

花散里

今週もとりあへず無事に週末に辿り着いた。この週末は三連休で特に用事らしい用事もないし、色々じつくりと考へたい。

通勤の車中の讀書、「源氏物語」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)は「玉葛」の帖から「初音」へ。およそ栄華を極めた光源氏は新春、女性たちそれぞれを訪ふ。やはり花散里が一番、幸福さうである。

花散里は、正妻の地位にある紫の上に次ぐ女性だが、容貌はもう一つで、夕霧にさへ「かたちのまほならずもおはしけるかな」と評され、既に若くもなく髪も薄くなつてゐる。しかし、性格が温厚、控へ目で誠実、もの靜かで、ことさら風流に見せようとすることもなく「あてやかに」(品よく)暮らしてゐるところが、いつまでも光源氏に大事にされ、何かと頼りにもされ、格別に愛される。夕霧や玉葛の母親代はりになり、最終的には夕霧の子の面倒まで見るのだが、便利に頼られたと言ふ面もあるにせよ、花散里本人は血の繋らない子や孫たちを見守りながら、最期まで幸せに穏かに暮らしたのではないか。

当たり前だが、結局のところ、人間の財産で最も素晴しいのは温厚で篤実な性格である。性格が温厚で篤実であるのはつまり、幸せだと言ふことであり、結局、幸せな人は幸せだ、と言ふトートロジに過ぎない。残念ながら、生まれつきか、もしくは子供の頃には定まつてしまふ財産のやうに見受けられるので、幸せに生まれついた人は幸せである、と言つてゐるだけなのかも知れない。

2016/09/15

大根おろし

蒸し暑いとは言へ、少しづつは涼しくなつて來てゐるのだらう。少なくとも夜は寝易い。

夕方、親会社の全体会議を終へて退社。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。良い豚肉をいただいたので大根の薄切りとあはせてしやぶしやぶ。大根おろしとポン酢で。鍋の残りのスープで饂飩を茹でて、大根おろしと卵で食す。たつぷりの大根おろしにポン酢を差し、そこにポーチドエッグを乗せて、茹で上がつた饂飩とからめて食べると言ふ、料理とも言へないやうな私のオリジナル料理だが、なかなかよろしいものである。

好物がよぼよぼの老人になつても食せるものかどうかは、大事な問題だ。例へば、歯応え十分のアメリカンなステーキが大好物、だなんて人は、かなり若い内から食べられなくなる不幸に陥る。私が好きなのは、豆腐、大根おろし、茶漬、蕎麦、饂飩の類なので、ほとんどその心配がないのが自慢である。

2016/09/14

水曜日

曇り空。気温はそれほど高くないが蒸し暑い。

歸宅して、風呂に入つてから夕食の支度。チリビーンズでワインを一杯だけ。のち、青椒肉絲、茄子の塩揉みに辛子醤油、御飯、オクラの味噌汁。食後にチーズ一切れで、グラスに残つたワイン。

夜は、院生時代に指導教官からもらつたノートの整理をしたり、「人間臨終図巻 4」(山田風太郎著/徳間文庫)を讀んだりで、しみじみと暮らす。

2016/09/13

梅ボシと作家

雨で涼しい。秋雨らしいのだが、予報によれば先にまだ真夏日が何度かあるやうだ。早く冬にならないものだらうか。

歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。チリビーンズで赤ワインを一杯だけ。のち、鯵の味醂干しを焼いて、沢庵、茄子の味噌汁、御飯。

夜は「人間臨終図巻 4」(山田風太郎著/徳間文庫)など。「八十四歳で死んだ人々」の最後は小説家の尾崎一雄(1899-1983)。原稿が書けない時の作家の言い訳にも色々あるが、尾崎は「梅ボシをつけるのもやめてがんばってみたんだが……」と言つたとか。尾崎は小田原に代々續く農家の出身で、梅干を漬けることが何よりも重大な行事だつた。それで駄目ならしやうがない。

また尾崎は四十三歳の時に胃潰瘍で、医者から余命三年と告げられ、五ヶ年計画を立てた。そこから五年以内に死ぬと仮定してあらゆる計画を立てたのである。しかし、尾崎は五年で死ななかつた。そこで五ヶ年計画を更新し、また更新し、また更新し……そして八十四歳の時、急性心不全で死んだ。一ヶ月前には小林秀雄の追悼文を「文學界」に書き、前日の夜までは元気だつた。ある意味、最も幸福な生き方をした人ではないか。

2016/09/12

ハーレム

往きの車中の讀書は「源氏物語」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)の第四巻。「乙女」の帖を終へて「玉葛」に入つた。光源氏は六条の院を造営。四季それぞれを配した庭を誂へた大豪邸、と言ふか、ほとんど一つの町みたいな規模なのだらう、そこに紫の上、花散里、秋好中宮、明石の君を迎へる。

言はばハーレムだが、ハーレムと言ふと私のイメージは、ナスターシャ・キンスキーみたいな美女がわんさかゐる女風呂のやうな感じか、紂王と妲己の酒池肉林の雰囲気なのだが、平安時代の理想のハーレム像はかう言ふしんみりした風情なのだらうか。春の庭の正妻と秋の庭の愛人が、お互ひに歌を送りあつたりね。

歸りの車中の讀書は、「名門」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)を讀み終へたので、またヒルに戻つて、「死の笑話集」(R.ヒル著/松下祥子訳/ハヤカワ・ミステリ 1761)。

今日は月に二度の精進日なので、晩餐も肉食と五葷を避ける。高野豆腐とオクラの煮物、茄子の焼きびたしで、冷酒を五勺だけ。のち、昆布だしを薄口醤油と味醂で割つて生姜をおろし、素麺を一把。夜は心靜かに、「人間臨終図巻 4」(山田風太郎著/徳間文庫)を讀んで、この世の無常に思ひを馳せる。

2016/09/11

春は希望の泉

日曜日はいつも讀書と家事、特に料理の仕込み。「名門」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)、「アウグスティヌス/ボエティウス」(世界古典文学全集 26 / 筑摩書房)よりボエティウスの「哲学の慰め」など。夕食は、牛肉とキャベツと車麩の蒸し物で赤ワインを一杯だけ、のち、卵かけ御飯に焼き海苔、茄子の糠漬、大根と糸寒天の味噌汁。夜は、「レッド・ドラゴン」(T.ハリス原作/B.ラトナー監督)を観たり。