「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2016/12/31

歳暮

かぞふればわが身につもる年月を送り迎ふとなにいそぐらむ (兼盛)

2016/12/30

一年の反省と人徳

夢現に「古楽の楽しみ」のリクエスト特集、7 時のニュース、フルトヴェングラー特集三日目の頭の方を聞いて、漸くに起き出す。いつもの納豆定食のあと、ラテン語と數學基礎論の勉強を少しづつ。

書き物仕事を少ししてから、朝風呂。湯船で「アンナ・カレーニナ」より、キチイとリョーヴィンの結婚式の場面を讀む。そのあと換気扇の掃除などをして、晝食までは「アンナ・カレーニナ」の續き。

晝食はハンバーグ、マカロニチーズ、キャベツと玉葱の炒めもの、赤ワインを一杯だけ。マカロニチーズは某クラ○ト社のインスタント製品をもらつたので作つてみたのだが、まあそう惡いものではなかつた。いや、意外に美味しいと言へなくもない感じ。午後も「アンナ・カレーニナ」を讀んだり、その合間の掃除。

夕食は鶏肉と豚肉の水炊き鍋。大根おろしに酢とだし醤油で。ビール。のち卵雑炊。夜はこの一年の一人反省会。

一番の反省はやはり、自分に徳がないことなのだが、どうすれば徳が得られるのか見当もつかない。では、自分の周りで徳がありさうな人を参考にしようにも、一人も見当たらない。唯一、私の母方の祖母は徳があつたとつくづく思ふが、今ハ則チ亡シ。やはり真の人徳者は、田舎で黙々と着物なんか縫つてゐて、ほとんど誰にも知られずに生きて死んで行くものなのかも知れない。

2016/12/29

チューリングの二番目に有名な論文

冬休み二日目。いつもの通り「古楽の楽しみ」を寝床で聞いてから起床。いつもの納豆定食のあと、いつものやうに ``Wheelock's Latin" でラテン語の勉強と「キューネン 数学基礎論講義」を少しづつ。朝風呂の湯船で「アンナ・カレーニナ」の續きを讀む。昼食までは、書き物仕事を少々。

昼食は焼きそば(豚肉、鶏肉、干し海老、キャベツ、人参、もやし、干し椎茸)とビール。だしであつさり塩味。焼きそばにビール、そして「アンナ・カレーニナ」。私のつつましい人生の、わびしい日々の中の、ささやかな幸せである。しかし、それ以上に何を求めることがあらうか。午後も「アンナ・カレーニナ」と、``Quantum Computing since Democritus" (S.Aaronson / Cambridge University Press)。

``Quantum ..." を讀んでゐると、「ここでこの本を數分(``a few minutes")ほど脇に置いて、チューリングの二番目に有名な論文を先に讀め」と書いてあつたので、そちらを讀む。実は、恥づかしながら今までこの原論文を讀んだことがなかつたのである。チューリングテストを提唱した論文として有名だが、その部分は「機械は考えることができるのか?」と言ふ曖昧で大きな問題に対し、縮小、具体化した問題として提出した形になつてゐる。元の問題については、九つの「ノー」派の意見に対しチューリング自身の見解を述べてゐるところが愉快だし、最後の章で「学習する機械」について述べられてゐることも興味深い。最近、世の中、人工知能とか深層学習とか賑やかだけれども、本質的にはチューリング以降ほとんど何も進歩してゐないやうな氣がするのだが……おそらくそれは私の認識不足であらう。

さすがに「數分」では讀めないもののかなり短いし、論文と言ふよりは一般向けの論説に近いものなので、讀んだことがない方には一讀をおすすめしたい。

夕食にチキンカレーを作る。赤ワインを一杯だけ。食後にチーズを少し。夜も讀書など。今日も良い一日だ。

2016/12/28

冬休み初日

少し遅く起き出して、チアシード入りヨーグルト、オートミール、珈琲の簡易版朝食。ラテン語と數學基礎論の勉強を少しずつしてから、朝風呂。湯船で「アンナ・カレーニナ」(トルストイ著/木村浩訳/新潮文庫)を讀む。

昼食は買つて來た生餃子を焼いて、大根と人参の紅白なます、ビール。午後は食材の買い出しや料理の仕込みの他は、讀書など。夕食は水炊き鍋とそのあとの卵雑炊。白ワインを一杯だけ。

終日、「アンナ・カレーニナ」と ``Quantum Computing since Democritus" (S.Aaronson / Cambridge University Press)。充実した一日。

2016/12/27

賀茂鶴

仕事納め。定例のミーティングのあと今期のレビュー、一人反省会など。夕方退社。歸りの車中で「源氏物語 第七巻」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)を讀了。冬休み前に丁度讀み終へた。第七巻と八巻の間で光源氏が死去し、第八巻は年始の仕事始めの日から。

水道橋で用を一つ片付けて、お土産に握り鮨と花を買ひ、歸宅。風呂に入つてから、頂き物の「特製ゴールド賀茂鶴」で鮨の夕食。

「アンナ・カレーニナ」(トルストイ著/木村浩訳/新潮文庫)を讀み始める。「幸福な家庭はすべて互いに似かよったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである。……」

2016/12/26

忘年会

さて、年内はあと二日の営業日。

夜は神保町にて、某忘年会に参加。弊社の初代社長が支援してゐる小さなスタートアップ各社が十社以上集まり、盛況だつた。弊社は既に買収されており、すなはち、"exit" 後であると言ふ意味で「スタートアップ」ではないのだが、各社の元気の良さを見るにつけ、見習ふべきことであるなあ、と思つた。

そのあと、同僚二人とベルギービール屋に行き、もう少し飲んでから歸る。そして、今歸宅。営業日はあと一日だ。

2016/12/25

誰が殺したコックロビン

昨夜は某邦楽家のご家族のクリスマス会に飛び入り参加してゐたので、今朝は遅い起床。

一週間分の家事とその合間の讀書の一日。「だれがコマドリを殺したのか?」(E.フィルポッツ著/武藤崇恵訳/創元推理文庫)、``Quantum Computing since Democritus"(S.Aaronson / Cambridge University Press) など。

これから TV で、先斗町歌舞練場での「顔見世大歌舞伎」を観る予定。

2016/12/24

猫日和

今日も良い天気。うちの老嬢もご機嫌だ。クリスマス・イヴだが、私は無神論者だし、一族も西本願寺だか神道だかなので関係ない。とは言へ、三連休だし気分だけは華やかにしようと、クリスマスらしい選曲のクラシックなりジャズなりを部屋に流しつつ、荷受と讀書の一日。

通勤の車中で讀んでゐた「配当」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)が少し残つてゐたのを、冬休みの讀書に集中する前に片付ける。昨日讀了。BASIC のプログラムが出て來たり、電話回線越しにプログラムを「録音」したり、今は昔的な感じがするものの、当時良く勉強して書いたのだらうなあ、と。しかし出來はもう一つ。はつきり言へば、平均以下の作品だと思ふ。年の離れた兄弟二人それぞれが活躍する二部に分けた効果も謎だし、馬鹿であるが故に危険な乱暴者と言ふ悪役の造形が小さ過ぎる。つまりただのチンピラ相手にディック・フランシスのヒーローが二人がかりは變だ。

「エムズワース卿の受難録」(P.G.ウッドハウス著/岩永正勝・小山太一(編・訳)/文藝春秋)、讀了。やはりウッドハウスは良い。ウッドハウスは偉大だ。私は普段、憂ひの玉箒、と言ふ言葉を八海山純米吟醸とかヱビスビールとペアにして良く使つてゐるが、ウッドハウスに使つてもけして不適切ではないと思ふ。

2016/12/23

エムズワース伯爵

遅く起き出して來て、居間の薔薇を愛でる。「ミケ」と言ふ品種らしいが、独特の形と色合ひに味がある。朝食はチアシード入りのヨーグルト、トーストにバタ、茹で卵、珈琲。

春のやうな温かな陽気。洗濯物を干して、風呂に入つてからは、讀書など。「エムズワース卿の受難録」(P.G.ウッドハウス著/岩永正勝・小山太一(編・訳)/文藝春秋)。

こんなのどかな日にぴつたりの短編集だ。私も田舎で、豚と南瓜と庭を愛でる以外に能のない、のんびり屋で綿菓子みたいなオツムの老領主様として暮らしたい。でも、まだそこまでの徳がないなあ、とも思つたり。

2016/12/22

アンナ・カレーニナ

色々あつたが、週末に辿り着いた。もうほとんど年末だし、それ來年でいいじやん、と言ふ感じで色々と先送りしてしまふ。来週のあと二日は平穏にやり過せるかなあ……

冬休みに何か大長編を讀もうと思つて、大長編と言へば「戦争と平和」だらうかと考へたりしてゐたが、トルストイなら「アンナ・カレーニナ」だよ「アンナ・カレーニナ」!と思ひつき、「アンナ・カレーニナ」に決定。

2016/12/21

冬休みの樂しみ

そろそろ年末年始が近付いて來たので、冬休み中の讀書計画を立てる。休みは一週間しかないが、その前後に三連休があるので、それも含めれば結構樂しめさうだ。

昨年末年始はどうだつたか振り返つてみると、「薔薇の輪」(C.ブランド著/猪俣美江子訳/創元推理文庫)、「論語」(吉川幸次郎著/朝日選書)、「幸福について」(ショーペンハウアー著/橋本文夫訳/新潮文庫)、「エマ」(オースティン著/阿部知二訳/中公文庫)、「顎十郎捕物帳」(久生十蘭著/朝日文芸文庫)を讀んだらしい。

今年は大長編を一息に讀んでみようかと思つてゐる。思ひ切つて「紅楼夢」全巻と行くか、樂しみはいくつかに分けて、「戦争と平和」と「細雪」、なんて感じで行くか、何を讀もうかと悩んでゐるだけで、にやにやするほど嬉しくなる。毎日作り置きの料理でちびちびやりながら、だらだらと大長編小説を讀む、冬休みとは良いものである。

2016/12/20

twice shy

いつものやうに、ラテン語と數學基礎論の勉強をしてから出勤。ラテン語は動詞や名詞の変化がかなり頭に入つて來たやうな。基礎論はエルブラン・モデルによる完全性定理の証明が終わつた。少しずつでも毎日やつてゐると、それなりではあるがそれなりに進んで行くものだ。

晝間は概ね色々なミーティングをしてゐた。夜は親会社の部の忘年会に少し顔を出してから退社。歸りの車中の讀書は「配当」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)。原題は ``Twice Shy" で、``Once bitten, twice shy" の諺からとつたやうだ。野蛮な英米人のわりにはうまい言ひ回しの方だらう。我々文明人はこれと同じことを子供ですら「楚辞」から引用して、「羹に懲りて膾を吹く」と美しく表現するのだが。

歸宅して、これから風呂。

2016/12/19

花や蝶や

月曜日。往きの車中の「源氏物語」は「夕霧」の帖。「花や蝶や」と言ふ言葉が出て來て、平安時代からあつた言ひ廻しなのか、と驚く。玉上琢彌先生の注釈によれば、「枕草子」の中に中宮定子の歌として「皆人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける」があるとのこと。実にいい歌だ(いとめでたし)。蝶よ花よと育てられ、と言ふ言葉は今でも使はれると思ふが、語の順番以外にも意味が随分變はつてゐるやうだ。

ミーティングで少し遅くなつたので、先に夕食の支度。簡単に出来るもの……冷凍のハンバーグ種を焼いて、キャベツの炒め物と。赤ワインを一杯だけ。食後のデザートは、包種茶で焼き芋。

2016/12/18

ヒューマン・ファクター

朝食はチアシード入りのヨーグルト、インスタントのスープ、クロワサン、珈琲豆が丁度切れてゐたので包種茶。

日曜日はいつも一週間分の家事と、その合間の讀書など。「ヒューマン・ファクター」(G.グリーン著/加賀山卓朗訳/ハヤカワ epi 文庫)。若い頃に旧訳で讀んだが、今回は新訳版で。物語の中で、「クラリッサ・ハーロウ」(S.リチャードソンの「クラリッサ」)、トロロープの「今生きること」(``The Way We Live Now")、デフォーの「ロビンソン・クルーソー」などのイギリス文學が印象的に用ひられてゐるのがちよつと面白い。

晝食は人参と玉葱のサラダを作り、レトルトのルーに適当にスパイスを加えてアレンジしたカレーライス、シラーを一杯だけ。夕食は、鯵の開きを焼いて、だし巻き卵、押し麦入り御飯、具沢山の味噌汁。


2016/12/17

晝の忘年会

午前中はデリバティブ研究部会自主ゼミ。前回でテキストの章が切り良く終はり、新年次回までかなり間が空くので、今日は私がピンチヒッター的に一回完結の発表をさせていただく。

師匠の古稀を切つ掛けに最近書いたプレプリント(arXiv:1610.06670)の解説。Onsager-Machlup 公式の確率解析的証明について。ファイナンスと何の関係もない、むしろ数理物理的な内容だが、かう言ふ事情なので勘弁していただいた。

ゼミのあとの参加メンバによるランチは、忘年会を兼ねて日仏会館内のフレンチレストランにて。晝から飲む酒はうまい。そして、今年二回目の「良い御年を」。

晝に食べ過ぎ、飲み過ぎたので、夕食はあつさりと月見蕎麦。夜は「ヒューマン・ファクター」(G.グリーン著/加賀山卓朗訳/ハヤカワ epi 文庫)など。

2016/12/16

金曜日

再び週末。親会社の全体会議を終へて退社。今週は七勝八敗の負け越しと言ふところかなあ……歸路にて、握り鮨のお土産とクロワサン 2 個と日本酒(「八海山」純米吟醸)を調達して、歸宅。

里芋の煮物、雷蒟蒻、お土産の握り鮨でぬる燗を一合。のち、インスタントのチゲ風スープ。

これから風呂に入つて、その後は諸橋論語の看経、もしくは明日のゼミ発表の練習。

2016/12/15

九勝六敗と立ちどき

いつもと同じ時間に退社。年度末で懸念事項にこと欠かないのだが、今日の私の運勢は一勝一敗と言ふところかなあ……と思ひつつ歸宅。

昔は、麻雀は学生の嗜みだつたので、私もそれで阿佐田哲也の名前を知つてゐるわけだが、彼が書いてゐた言葉で二つ、心に残つてゐることがある。一つは「九勝六敗」、もう一つは「立ちどき」。

彼が言ふには、賭場で氣をつけるべき強敵は、その場で勝ちまくつてゐる奴ではなくて、いつも九勝六敗の奴だ、と。さうは公言しないし、地味で目立たないが、良く見てゐると明らかに九勝六敗を狙つて打つてゐる奴がゐる、それが最強のギャンブラーだ、と。この理論は時に迷信めいた説明だつたり、時には人生論だつたりで良く分からないのだが、私には負け方の理論に思へた。いかに上手に、美しく、怪我をしないで負けるか。私のモットーは、「人生とは一個の撤退戦」と「無事是貴人/無事是名馬」なので、ネガティヴなところに共感したのかも知れない。

また博打は好きなときに立てるなら、つまり、やめて場を抜けられるなら、簡単だ。「旦那」は大勝ちしたところで初めて立つ工夫を考へる。だから、しばらく「張り流し」をして結局、負ける。プロは実際に立つずつと前から考へてゐる。「立ちどき」を目指して場を作つて行く。それが旦那とプロの差だ。勝ち負けの一つ一つは重要でない。プロ同士の戦いは自分の立ちどきを巡る争ひなのだ、と。

風呂に入つてから、夕食の支度。人参のサラダを作り、冷凍してあつたハンバーグ種を焼く。赤ワインを一杯だけ。のち、カルボナーラ。夜は「喰いたい放題」(色川武大著/光文社文庫)を讀む。

2016/12/14

夜勉

朝一番の臨時ミーティングのため、朝食のあと即出勤。ぎゆうぎゆう詰めの満員電車に揺られながら、日本の夜明けは遠いなあ、と思ふ。私の人生の黄昏は近いけれどもね。

退社時間はいつもと同じ時間。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。白菜と豚肉だけのシンプル鍋。たつぷりの大根おろしとポン酢で。白ワインを一杯だけ。のち卵雑炊。

朝は勉強できなかつたので、夜に "Wheelock's Latin" の演習問題を少し解き、「キューネン 数学基礎論講義」(K.キューネン著/藤田博司訳/日本評論社)を少し讀み進める。エルブラン・モデルで完全性定理を導くあたり。私は朝型では全くないが、それでもこの歳になると午後には身体が疲れてしまふし、夜は晝間の雑念で氣が散るしで、やはり勉強するなら朝が良いと思ふ。

2016/12/13

火曜日

午後からミーティング二つと、その後の往訪仕事。冷たい小雨が降り始めた。歸宅して、雷蒟蒻、里芋の煮物、鶏肉の漬け焼きで冷酒を五勺。のち、インスタントの担々麺風スープ。そして、これから風呂の予定。

今週は長い一週間になりさうだなあ……

2016/12/12

測度論のタオ

兄弟弟子にあたる數學者 O さんが測度論の教科書を翻訳されたとのことで、会社に一部送つてくれた。大學を引退した私にまで、ありがたし。私も二冊ほど測度論の本を訳してゐるので一応は先輩、と言ふことでかな。

著者はテレンス・タオ。タオが測度論とは意外な氣がしたが、そもそも解析學者なので当然なのかも。ぱらぱらと見た感じでは、入門書の体裁ではあるが、かなり難物。測度論とほとんど関係のない「問題の解き方」みたいな内容のオマケの章まであるのは、世界一のパズルソルヴァとしての茶目だらうか。

いつもの時間に退社。歸りの車中の讀書は R.ヒルからまたディック・フランシスに戻つて「配当」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)。歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。タイ風の炒めものかけ御飯、インスタントのトムヤムクン・スープ。

夜はゼミの準備。チーズとパンとグラス一杯のワインを傍らに、週末に作つたノートに台詞をつける。

2016/12/11

「エクス・マキナ」

休日の洋風朝食ののち、朝風呂。午前中はゼミの準備。A4 ノートで 8 ページほど書いた。晝食のあとヴィデオで「エクス・マキナ」(A.ガーランド監督/2015)を観る。

カルト的にヒットした「AI 映画」らしいことに興味を持つて観てみた。映像は凄いが、内容は「AI 風味」の軽いスリラー。登場人物は三人だけ、場面はほぼ別荘の中だけの心理サスペンスで、フランス風(?)かも知れない。とは言へ、視覚効果は凄い。映画でなければここまで素晴しい映像は作れないだらう。クーポン券とつぶしたい暇がある人にはお勧めできる。無論、百三十年前に書かれたヴィリエ・ド・リラダンの「未来のイヴ」を読み返す方が刺激的で知的な時間の過し方だとは思ふが。

なお、「AI 風味」については、主人公のプログラマが美少女アンドロイド相手にチューリングテストをする、と言ふ基本設定であること、その中で「色を見たことのない色彩科学者」の思考実験に言及すること、アンドロイドの顔の表情のアルゴリズムが世界中のスマートフォンから集めたデータを基礎に作られてゐるとか「AI」のアルゴリズムは検索エンジンそのものだとか、それつぽいことを言ふこと、アンドロイドを開発した天才技術者の会社が "blue book" と言ふ名前でウィトゲンシュタインの「青色本」からとつたらしいこと、で凡そ全部。

夕方まで一週間分の家事をあれこれ。そろそろ白菜が美味しくなつて來たので、夕食はピエンロー。もちろんビール。あとは雑炊。さらに包種茶と焼き芋。焼き芋ブームが続いてゐて、色々な薩摩芋を試してゐる。夜は「やっぱり美味しいものが好き」(J.スタインガーテン著/野中邦子訳/文春文庫)など。


2016/12/10

老後の樂しみ

あまりに早く目が覚めて、二度寢。8 時くらゐに起き出して朝食の支度。昨日買つた薔薇、ブルゴーニュが綺麗だ。休日の洋風朝食。朝風呂に入つてから、午前中はゼミの準備など。

晝食は春雨サラダと、海老と卵と大根葉のチャーハン、インスタントのトムカーガイ風スープ。晝間に飲むビールはうまい。午後は買ひ出しと料理の仕込み。里芋の煮物と雷蒟蒻を作る。

オーヴンで薩摩芋を焼いてお三時。包種茶を飲みつつ、「メグレと火曜の朝の訪問者」(G.シムノン著/谷亀利一訳/河出文庫)を讀む。メグレものは老後の樂しみにとつておいたのだが、考へてみたら既に老後なので、解禁することにした。そして、「火曜の朝の訪問者」を讀了。人間の謎を解く、か、なるほどなあ……としみじみ。また、完全犯罪の物語としても秀逸。最初から運良く傑作に当たつた可能性もあるが、他の作品も同レベルなら、今まで讀まずに残しておいて良かつたやうな、もつと早く讀むべきだつたやうな。

夕方になつて再び風呂に入つてから夕食の支度。海老と椎茸だけの茶碗蒸し。のち、刻み饂飩。刻み饂飩とは、刻んだ油揚げと葱だけが具のかけ饂飩である。七味ではなく山椒などふりかけて食すと、なかなか枯淡の味はひのあるもので、私のやうな老人向きである。


2016/12/09

鈴虫と松虫

漸く週末だ。往きの車中の「源氏物語」は「横笛」から「鈴虫」の帖に入つた。この時代には、鈴虫と松虫の名前が逆だつたらしい。玉上琢彌先生の注釈によれば、「鈴虫は『チンチロリン』、松虫は『リーンリーン』」とのこと。

そう言へば子供の頃、私の村では、夏に鈴虫(「リーンリーン」の方)を飼ふのが当然の習慣だつた。あの家の鈴虫は声が良い、なんて言つたものだ。私の実家の邊りは、一言で言へば、横溝正史の小説に出て來るやうな田舎村なのだが、今はあんな田舎でもそんなことしないのかなあ。

夕方から大手町で往訪の仕事。そのあと神保町の珈琲屋で一服してのち、直接歸宅。歸り道で「ブルゴーニュ」と言ふ白薔薇を買つた。風呂に入つてから、夕食の支度。春雨のサラダでビール。のち、鶏挽肉のガパオライス、インスタントのトムヤムクン・スープ。週末のビールはことさらにうまい。来週も厄介なことが色々控へてゐるやうなのだが、週末の間は忘れてゐよう。


2016/12/08

ロブスターロール

やれやれ今週は長いなあ……と思ひつつ、歸宅。相談事などがあつて退社が少し遅くなつたので、先に夕食の支度。すぐに食べられるもので、冷奴、焼き椎茸に生醤油、蒸し鶏に胡麻油と塩で、ぬる燗を五勺。のち、釜揚げ饂飩。

食後に包種茶を飲みながら、「やっぱり美味しいものが好き」(J.スタインガーテン著/野中邦子訳/文春文庫)より「ロブスターロール」についての論考を讀む。要するにロブスターのサラダのホットドッグ式サンドウィッチだ。こだはりを持つやうな料理とは日本人の私には思へないのだが、ニューイングランド地方のアメリカ人には欠かせない味だとか。それはさておき、ロブスターの交尾は随分と奇妙なものらしい。まあ、人間のそれだつて随分と奇妙なものだが。

これから風呂に入つてから、諸橋論語の看経ののち、就寢予定。

2016/12/07

山羊肉

今日もこれで寒い方なのか。もつと冬らしくしてもらひたいのだが。軽井沢か富士吉田か青森あたりの気候が私にぴつたりなのではないか……と思ひつつ、出勤。

結晶の模様に凍りついた窓に朧げに浮かぶ銀世界、林檎の木に重く積もる雪、暖炉の前に伸びる老猫クロと盲目の犬(名前はオーディーン)、もう二週間人間とは話してゐない靜かな冬……心行くままに和漢朗詠集を、またはホラティウスをラテン語で、荘子を白文で讀む夕べ、今日の晩餐は塩漬豚肉とレンズ豆の煮込み、マンディアルグの「オートバイ」を思はせる鋼のやうに気高いリースリングの香り…………と言ふ充実した妄想時間を電車の中で過して、いつもの時間に出社。

今日の晝食で、この半世紀近い人生でおそらく初めて、山羊の肉を食べた。インドネシア料理には良く使ふものなのだらうか。いつもの時間に退社。

歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。豆腐と絹莢の卵とぢに牛蒡天で冷酒を五勺。のち、筍御飯と里芋の味噌汁。食後に包種茶と小さな薩摩芋。

2016/12/06

北風

朝は温かかつたのに、日が落ちると外は冷たい北風。風が強いせゐか、気温が急下降したやうに感じる。歸宅後、まず風呂に入つて身体を温める。

湯船の讀書は相変はらず ``The Paper Thunderbolt"(M.Innes / Penguin). アプルビイの妹ジェインが、素性は良く分からないが氣の良い青年を運転手代はりに、謎の救急車を追跡の末、全ての謎の中心にあるらしき、謎の村の謎の施設 ``Milton Manor" に侵入。

夕食の支度。あれこれ料理をする氣になれず、一品で食材を沢山使おうと、ソース系の黒つぽい焼きそばを作る。夜店の鉄板焼きそばをイメージしてみた。ビールがうまい。


2016/12/05

若竹煮

さて、また一週間だ。平日お決まりの納豆定食の朝食のあと珈琲を淹れて、ラテン語動詞の第四変化を暗唱し、「キューネン 数学基礎論講義」を讀み、出勤。

いつもの時間に出社、退社して歸宅。風呂に入つてのち、夕食の支度。昨日、十目焼きそばを作るために無闇に買ひものしたため、食材豊富。

季節外れの若竹煮で、白ワインを一杯だけ。鶏肉ともやしを蒸して、ポン酢で。のち、蒸し鶏のスープを使つて汁かけ飯。山葵と海苔。デザートに小さな焼き芋と包種茶。

今日も變はりない一日であつた。夜はゼミの下調べのためファインマン積分の勉強を少々。

2016/12/04

ランボー号

チアシード入りヨーグルト、バゲットにクリームチーズ、茹で卵、珈琲の簡易的な朝食のあと、朝風呂。午前中はラテン語の単語帳を少し拡充し、「漢文の話」(吉川幸次郎著/ちくま学芸文庫)を少し讀み進めてから、食材の買い出しなど。

晝食は十目塩焼きそば(豚肉、鶏肉、海老、烏賊、椎茸、筍、人参、キャベツ、もやし、莢豌豆)とビール。焼きそばは、具が充実してゐるときは鶏がらスープと塩で白つぽくさつぱりと、具が単純なときは醤油系かソース系で黒つぽく濃厚に、がよろしいと思ふ。

午後は一週間分の家事と、その合間にゼミの準備を少しして、原稿の構想を少し練り、「やっぱり美味しいものが好き」(J.スタインガーテン著/野中邦子訳/文春文庫)を讀む。

夕方になつて再び風呂に入つてから、夕餉の支度。昨日の簡素おでんに牛蒡天と茹で卵と豆腐と蒟蒻を追加。ぬる燗を五勺。おでんの殘りのスープで汁かけ飯風のものを作つて食す。下賎な食べ方だがうまい。

さて、心靜かに諸橋論語を看経する時間だ。


2016/12/03

カルドソと簡素なおでん

チアシード入りヨーグルト、バゲットを數切れ、クリームチーズ、珈琲の簡単な洋風の朝食をとつて家を出る。定例のデリバティブ研究部会自主ゼミ。乗法作用素の連続性など。参加者によるゼミ後のランチはスペイン料理。漁師風のカルドソなど。「カルドソ」は初めて聞いた料理名だつたが、スープ多めの雑炊のことのやうである。

歸り道、神保町で古本屋を軽く周る。河出文庫のメグレものを三冊、食関係では「芝居の食卓」(渡辺保著/朝日文庫)、「やっぱり美味しいものが好き」(J.スタインガーテン著/野中邦子訳/文春文庫)。歸宅して、午後は焼き芋を食べながら讀書など。並行して、大根と里芋と豚串だけの簡素なおでんを仕込む。

夕食は、大根の皮と昆布のなます(もちろん、おでんのだしをとつた後の昆布と、具にした大根の皮で作つたのである)、里芋と豚串のおでんでビール。牛筋と違つて豚串は焼いて塩をふつて食べた方が遥かにうまいことは承知してゐるが、だしをとるため一本だけ入れてみた。のち、釜揚げ饂飩(生卵、刻み葱)。

夜も心靜かに暮らす。おつと、そろそろ諸橋「論語の講義」の看経の刻限ゆゑ失礼いたす。


2016/12/02

モーダス・ポーネンス

「古楽の楽しみ」のリクエスト特集に、金曜日だな、と夢現に思ふ朝。今日のラテン語は、第四変化動詞のあたり。幸ひにもラテン語の規則動詞の活用形は 4 パターンしかない。と言つても、それぞれに人称が 6 つあり、それぞれに時制が直接法で 6 つ、接続法で 4 つあるのだが。數學基礎論はトートロジーについて。またラテン語が出て來た。モーダス・ポーネンス("modus ponens")。

いつもの時間に出社、退社。夕食を作るのが面倒で、歸り道にスープカレーで済ませる。夜は「元禄忠臣蔵」(真山青果著/岩波文庫)、「漢文の話」(吉川幸次郎著/ちくま学芸文庫)など。

2016/12/01

十二月

いつものやうに朝食と弁当作りのあと、ラテン語、數學基礎論の勉強をして、いつもの時間に出勤。いつもの時間に退社して歸宅。風呂に入つてのち、夕食の支度。塩豚とキャベツの炒めもので白ワインを一杯だけ。のち、卵かけ御飯、焼き海苔、里芋の味噌汁。食後に包種茶と小さな焼き芋。夜は「元禄忠臣蔵」(真山青果著/岩波文庫)など。

早いもので、気付けばもう十二月である。今年もあと少し。あらたまの年も暮るれば作りけむ罪ものこらずなりやしぬらむ(兼盛)。十二月と言ふことは、私の社長業も丸二年。義理と人情でやむなく引き受けたのだつたが、早いものだ。