往きの車中の讀書は「源氏物語」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)の第四巻。「乙女」の帖を終へて「玉葛」に入つた。光源氏は六条の院を造営。四季それぞれを配した庭を誂へた大豪邸、と言ふか、ほとんど一つの町みたいな規模なのだらう、そこに紫の上、花散里、秋好中宮、明石の君を迎へる。
言はばハーレムだが、ハーレムと言ふと私のイメージは、ナスターシャ・キンスキーみたいな美女がわんさかゐる女風呂のやうな感じか、紂王と妲己の酒池肉林の雰囲気なのだが、平安時代の理想のハーレム像はかう言ふしんみりした風情なのだらうか。春の庭の正妻と秋の庭の愛人が、お互ひに歌を送りあつたりね。
歸りの車中の讀書は、「名門」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ文庫)を讀み終へたので、またヒルに戻つて、「死の笑話集」(R.ヒル著/松下祥子訳/ハヤカワ・ミステリ 1761)。
今日は月に二度の精進日なので、晩餐も肉食と五葷を避ける。高野豆腐とオクラの煮物、茄子の焼きびたしで、冷酒を五勺だけ。のち、昆布だしを薄口醤油と味醂で割つて生姜をおろし、素麺を一把。夜は心靜かに、「人間臨終図巻 4」(山田風太郎著/徳間文庫)を讀んで、この世の無常に思ひを馳せる。