「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2016/09/13

梅ボシと作家

雨で涼しい。秋雨らしいのだが、予報によれば先にまだ真夏日が何度かあるやうだ。早く冬にならないものだらうか。

歸宅して風呂に入つてから夕食の支度。チリビーンズで赤ワインを一杯だけ。のち、鯵の味醂干しを焼いて、沢庵、茄子の味噌汁、御飯。

夜は「人間臨終図巻 4」(山田風太郎著/徳間文庫)など。「八十四歳で死んだ人々」の最後は小説家の尾崎一雄(1899-1983)。原稿が書けない時の作家の言い訳にも色々あるが、尾崎は「梅ボシをつけるのもやめてがんばってみたんだが……」と言つたとか。尾崎は小田原に代々續く農家の出身で、梅干を漬けることが何よりも重大な行事だつた。それで駄目ならしやうがない。

また尾崎は四十三歳の時に胃潰瘍で、医者から余命三年と告げられ、五ヶ年計画を立てた。そこから五年以内に死ぬと仮定してあらゆる計画を立てたのである。しかし、尾崎は五年で死ななかつた。そこで五ヶ年計画を更新し、また更新し、また更新し……そして八十四歳の時、急性心不全で死んだ。一ヶ月前には小林秀雄の追悼文を「文學界」に書き、前日の夜までは元気だつた。ある意味、最も幸福な生き方をした人ではないか。