ワインを一合ほど水筒に詰め、チーズ一切れを包んで、家を出る。さらに木挽町「辨松」で一番安い赤飯の「幕の内一番」を買ひ、歌舞伎座へ。「秀山祭九月大歌舞伎」の晝の部を観劇。「碁盤忠信」、「太刀盗人」、「一條大蔵譚」。
無能なふりをしてゐるが実はそれは世を欺く仮の姿……と言ふテーマは歌舞伎に良くあるが、一條大蔵卿は無能どころか、藤山寛美のアホ丁稚なみのアホのふりをしてゐる設定。役者はアホを演じる人を演じるわけだが、なかなか難しいと思ふ。大星由良之助のやうな無能なふりや駄目男のふりではなくて、アホのふりなので、どうしても観客まで馬鹿にされてゐるやうな氣になつてしまふ。ここを嫌味なく、品良く、演じるのが難しさうだ。
今回は吉右衛門が演じてゐて、悪くはなかつたが、生まれも育ちも関西の私からしてみれば、まだ嫌味が殘る。アホの真髄は関西人にしか演じられないので、仁左衛門などには一歩譲るのではないかと思ふ。