寢坊。秋立ちて幾日もあらねどこの寢ぬる朝明の風はたもと寒しも。洗濯をしてから、朝食の支度。チアシード入りのヨーグルト、チリビーンズ、キヌア、目玉焼き、珈琲。朝風呂。湯船の讀書は、 "The importance of living" (Lin Yutang / Harper).
ぼうつとしてゐるうちに晝になり、午餐の支度。肉がないので牛モツを少し使つて、お好み焼き。チーズを切つて、ワインを一杯だけ。食後に少し晝寢を、と思つて寢台に横になつたら二時間以上寢てしまつた。秋の日は釣瓶落とし。夕食の時間まで、「バベルの図書館」(J.L.ボルヘス編纂・序文/国書刊行会)のヘンリー・ジェイムズの巻「友だちの友だち」から、「ノースモア卿夫妻の転落」(大津栄一郎訳)を讀む。
有名政治家ノースモア卿が死ぬ。續いて、卿の旧友でライヴァルでありながら、その影に隠れるやうに何の成功も手に出來なかつたホープ氏も亡くなる。遺されたホープ夫人は人生が不公正であるやうな複雑な気持ちを抱く。そこに卿の書簡集出版の企画が持ち上がり、卿夫人からホープ夫人のところにも卿の手紙が保存されてゐないかと連絡が來る。実際、氏は卿からの大量の手紙を全て保存してゐた。夫人はどう返事するか悩む……と言ふやうなお話。一種の復讐譚だが、意地の惡さと精密な心理描写のメスが、凡庸さ、才能、成功、幸福と言つた大文字の問題に、一つの角度から鮮やかな手並みで触れてゐる感じ。
夕餉の支度。牛モツの殘りを使つてモツ鍋。ワインを一杯だけ。あとは雑炊にした。雑炊最高。「ノースモア卿夫妻の転落」に感動したので、同書よりさらに一篇「私的生活」を讀む夜。
優れた随筆を讀むと、これは面白いことを聞いたわいと嬉しくなつたり、良い山水の風景でも見たやうに心がふと靜かになつたりするものだが、優れた短篇小説は讀後、自然に頭が下がると言ふか、感謝したいやうな氣持ちになる。