「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2014/01/12

猫と「月長石」

猫で足を温めながら、「月長石」(W.コリンズ著/中村能三訳/創元推理文庫) を読んだ一日。

770 ページもかかって宝石盗難事件を解決する退屈な小説、と思っていたのだが、 まさに巻を置くを能わず、ものがたりのうまさでどんどん読ませる。 昨日の続きを午後から読み始めて、とうとう夜には読了してしまった。

ミステリとは言えないかも知れないが、物語として兎に角おもしろい。 似ているのは当然ながらディケンズだが、ディケンズよりはずっと構成が緻密で、そのあたりがミステリらしいと言えるかも。 人物造形と描写においてもディケンズに勝るとも劣らず、 特に、「ロビンソン・クルーソー」を座右の書として愛読する老執事ベタレッジがいい。 「ロビンソン・クルーソー」を再読したくなるくらいだ。 また狂信者クラック嬢の造形は類型的と言えばそうだが、そのコミカルな描写に相応で、むしろ著者の計算だろう。 全体として、ああ、おもしろかった、と言う以上の「深さ」の意味ではディケンズに及ばないかも知れないとは言え、 古典と呼ぶにふさわしいエンタテイメントの傑作だと思う。

名作とは聞いているがあまりの長大さに敬遠している、という人には、是非お勧めしたい。 読み始めれば止まらなくなることを請け合う。