「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2017/01/01

椿油

年越しだけは実家で過し、すぐに戻つて來た。実家は相変はらずだつたが、庭の椿が大木になつてゐたのだけは印象的だつた。無論、急に育つたのではなくて、昔、祖祖母と大叔父の家の庭にあつた椿から零れた種が芽吹いたものを移してから三十年、ずつと家の庭にあつたのだが、ふと今年、こんなに大きかつたつけ、と気付いたのである。今は沢山の蕾をつけてゐて、二月には真赤に咲くとのことだ。

知らんうちに立派になつたもんやなあ、と母に言ふと、ええお屋敷では椿は植ゑんもんやけどな、と言ひつつも、まんざらでもないやうだつた。老母が話すことには、昔は近所に椿油を絞つてくれる場所があつて、祖母は祖祖母宅の椿の種で油を作つてもらつてゐた、との由。そう言へば椿油つこてたなあ、と思ひ出したが、庭の椿で作つてゐたとは知らなかつた。

年越しは概ね、「細雪」(谷崎潤一郎著/中公文庫)を讀んでゐた。今、丁度中程くらゐ。細雪は話の筋なんて関係なく、滅び行く豊かさの最期の輝き、と言つた風情に浸るのがよい。今の日本には豪奢と言ふ言葉に値するほど厚みのある文化がほとんどないので。