料理をしてゐる時に右手の親指の腹をすぱつと切つてしまふ。絆創膏を貼つて、親指を使はないやうにしてゐるのだが、なるほど他の指と対向する指は進化上の大発明である、何をするにも大事な役割を果たしてゐて、ついうつかりと親指の、しかも腹で何かを押さへてしまふ。すると、折角ふさがりつつあつた傷がまた開いて血だらけになる、と言ふ繰り返しで、なかなか治りが遅い。
朝は良く晴れてゐたが、午後からは曇り空。明日は雨になるらしい。帰宅して、風呂に入つてから、チリビーンズでアルトビールを一本だけ。ああ美味しい。この一杯のために生きてゐるのだなあ、なんて言ふと、何と志の低い人間だ、と思はれても仕方がないのだが、さう思つてしまふのだから仕方がない。
もちろん、労働もせずに朝にテラスで飲むクリュッグだつて美味しいに違ひないが(「シャンペンは昼食時間を過ぎたら女の子の飲み物だ」)、一日の労苦のあとのビールの方が美味しく思へるのは、おそらく私は代々労働者、もつと具体的に言へば、水飲み百姓の血筋なのかも知れない。