三越の地下の鮨屋で太巻きを買つて歌舞伎座へ。「八月納涼歌舞伎」の第一部を観劇。「嫗山姥」より岩倉大納言兼冬公館の場と、「権三と助十」。
「嫗山姥」のこの場は、元傾城の代筆屋八重桐が昔の痴話喧嘩の様子を長々と「しやべり」倒すのが近松の趣向で、扇雀が良く頑張つてゐた。
「権三と助十」は実のところ一種の捕物帳、現代的に言へば短篇ミステリである。実際、油断してゐると、最後にミステリ的なオチまである。しかし、そこは流石に「半七捕物帳」の岡本綺堂作、江戸情緒あふれる世話物である。初演は 1926 年(大正十五年)らしいが当時でも、江戸は遠い過去だつた。長屋の井戸替へなんてイヴェントを物語に取り込むのは綺堂ならでは、と言ふところだらう。家主六郎兵衛役の彌十郎は貫禄だが、他の獅童、染五郎、七之助も安心して観てゐられる安定感ではあつた。