「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2016/08/12

風呂敷

オフィスから持ち帰りたい荷物があつたので、手を空けるため風呂敷包みで出勤。中身は大きなおむすび一つと手帖のみ。私が子供の頃の替へ歌に、朝も早うから弁当箱下げて家を出て行く親父の辛さ、と言ふものがあつたが、かう言ふ心持ちだらうか。ちなみに、歌のオチは、嗚呼悲しや小遣ひ三十円、と言ふのだつたが、今日の私は一銭も持たずに家を出たので、それ以下。

いつもと同じく夕方退社して荷物を持つて歸宅。氣温はさほど高くないが蒸し暑いことには変はりない。風呂に入つて湯船で「一年有半・続一年有半」(中江兆民著/井田進也校注/岩波文庫)を讀む。

喉頭癌で余命一年半の宣告を受けた先生は今、大阪の文楽座で二代越路太夫や初代呂太夫を聴いてゐる。どうやら最後の黄金期に間に合つたと言ふことか。「余素より義太夫を好む、しかれども殊に大坂のものを好む、東京のものを好まず、東京の義太夫は大坂のものに比すれば一児戯に値せざるなり」。見識である。さらに先生は、令閨を伴つて明楽座で大隅太夫の浄瑠璃、壺坂寺の段を聴き、「技此に至りて神なり」「これ斯道の聖なり」と絶賛してゐる。

風呂上がりに、南瓜の煮付けと枝豆でビール。今日も生きてゐて良かつた。月例の精進日のため、そのあとも茹でた饂飩を山形だしと生醤油で食し、肉食と五葷を避く。