「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2016/03/13

ネロ・ウルフと「百万人の数学」

精進明けだが特に贅沢をするわけではない、一週間分の家事と読書の一日。

読書は「フーコーの振り子」(U.エーコ著/藤村昌昭訳/文春文庫)の他、"Three Men Out" (R.Stout / Bantam books) より "The Zero Clue" など。

"The Zero Clue" はネロ・ウルフものの短篇。被害者は大学を辞めてコンサルタントに転身した数学者で、死に際に鉛筆を並べた謎のメッセージを残す。つまり、言はゆるダイイング・メッセージのテーマである。被害者の専門が確率論といふところが面白い。最初はギャンブルや選挙の結果などの予測をし、公式(?)の精度を雑誌で宣伝したことから始まつて、段々と何でもかんでも世の中の問題が持ち込まれるやうになり、大金の失せ物探しで一発当てたことで、教授職を抛つて独立したといふ設定。これが書かれたのは 1950 年頃だが、既に確率論がかういふ注目のされ方をしてゐたのだらうか。

数学者が残したダイイング・メッセージといふことで、雑学の大家ネロ・ウルフも「記憶を確認するため」と称してホグベン「百万人の数学」を参照して謎を解くところも楽しい。短篇のわりに充実したプロットで、なかなかの佳作。ネロ・ウルフものがもつと翻訳されればよいのに、と常々思つてゐるのだが、過去の実績によれば日本ではあまり受けないらしい。今さら古い作品が訳されることはないだらうなあ。