蒸し暑い。
帰宅して風呂に入り、湯船で「フランス料理の秘密」(日影丈吉著/文化出版局)を読む。少し昔の本なので(昭和四六年刊)、今となっては古臭い情報もあるのだが、才人が書いただけになかなか面白い。
今日読んだところは「メーグル」と「グラ」の話。今のフランス人は全く気にしていないと思うが、かつては金曜日や四旬節など鳥獣の肉食を控える日があった。そういう日に食べられる料理をメーグルと言い、食べてはいけないもの(つまり肉料理)がグラである。メーグルは魚介類だけかと言うとそうでもなく、小型の家禽などもセーフらしい。何がメーグルで何がグラか、何を食べて良くて何が駄目かを決めて指図するのは、もちろん、宗教の坊主どもである。昔は単純に鳥獣の肉は全てグラだったらしいが、宗教も商売なので、徐々にグラからメーグルに移される肉が増えていった。
例えば、四旬節はブリュヴィエという渡り鳥がうまい季節である。ブリュヴィエ食べたい。そこで、四旬節の時期を選んでこの鳥が飛んでくるのは「神の思し召し」だからメーグルである、となった。また、昔はフランスでもローヌ川の渓谷などに海狸(ビーバー)が生息していて、食べられていた。ビーバーの下半身はいつも川の水に浸っているから、そこの肉はメーグルだ、という理由で、腿肉を油漬けにして保存したものが四旬節に好んで食べられたと言う。