「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2016/05/30

シャトオ・ディケムの赤

雨の月曜日。家にゐられるなら雨は大好きだが、出勤しかも月曜日では憂鬱にもなる。往きの車中で「源氏物語」(玉上琢彌訳注/角川ソフィア文庫)の第一巻を読了。「若紫」の帖まで。ただの幼女誘拐、拉致監禁なのでは……と思ひつつ、光源氏青年のご乱行は「末摘花」に続く。

休憩時間に久生十蘭の「キャラコさん」から「雪の山小屋」一編を読む。心が洗はれるなあ。「紅玉のようなシャトオ・ディケムを注いで廻る」と言ふ一文があるのを見つけ、私の知る限りイケムの畑に赤ワイン用の葡萄はないはずなので、流石の十蘭も何せ昔の人だ、かういふ間違ひもするのだなあ、と思ひつつも、キャラコさんの大活躍に酔ふ一時であつた。

十蘭と言へば、博覧強記、魔術師の如き技巧、徹底的な添削、マニエリスムの権化、みたいなイメージを持たれてゐるが、自分の思ひ込みと調子に任せてすらすら書き飛ばしてゐるやうな面もあつて、どちらかと言へばその猛烈なスピード感が持ち味だと思ふ。このくらゐ速い文章を書ける人は他にゐない。確か、橋本治が十蘭の勘違ひについて同じやうな論考を書いてゐたはず。

夕方退社。ぼんやりしてゐたら、傘もジャケットもオフィスに置き忘れてきてしまひ、冷たい小雨に濡れながら帰宅。風呂に入つて「SF の S は、ステキの S」(池澤春菜著/coco マンガ・イラスト/早川書房)で身体を温める。読了。次は「乙女の読書道」も読もう。夕食は、週末に作つて感動した十目焼きそばをアンコール。やはりうまい。赤ワインを一杯だけ。夜は「モンテ=クリスト伯爵」(デュマ著/大矢タカヤス訳/新井書院)など。