「幸福について」(ショーペンハウアー著/橋本文夫訳/新潮文庫)。これは私が最も多く読み返している本で、おそらく十回目どころではないだろう。私の厭世的で悲観的で知足的な性格はこの書物によって形成された可能性が高いという意味で罪作りな一冊ではあるが、一方ではこの本によって救われたことも数知れず、その面では感謝している。
しかし、この本を読み返す度に思うのは、これほど愛読してその教えを肝に銘じながらも、まだ敢て間違いを犯し続けている我が身の愚かさである。まさに、「緒言」に引用されているヴォルテールの言葉、「われわれはこの世をみまかるときも、この世に生まれて日の目を仰いだときと同じく、愚かで悪党であることだろう」に頷かざるをえない哀しさである。