あくまで私が今年読んだ本なので、今年の出版事情とは何の関係もないです。事実、一冊も新しい本は含まれません。確かトレヴェニアンは、ある現代作家について意見を訊かれて、私は二十世紀に書かれた本はプルースト以外読まないのでわかりません、と答えたそうだ。極端な見得の切り方だが、一つの見識ではある。それはさておき、以下がその三冊。冬休みの読書計画のご参考に。
- 「月長石」(W.コリンズ著/中村能三訳/創元推理文庫)
- 「ワインは死の香り」(R.コンドン著/後藤安彦訳/ハヤカワ文庫)
- 「アナバシス」(クセノポン著/松平千秋訳/岩波文庫)
「月長石」は言わずと知れた「最大にして最上のミステリ」(T.S.エリオット)。今年読んだ本で最も面白かった、時の経つのも忘れて読み耽った、という意味で今年のベスト。
「ワインは死の香り」は、ギャンブル狂の主人公が莫大な額の借金を返すため、 一万八千ケースという大量の高級ワインを盗み出すお話。スノッブでお洒落でシニカル。 なかなか書かれないタイプの小説だと思う。
「アナバシス」は私の心の古典なので、他の人にとって面白いかどうか分からない。おそらく「なぜ古典を読むのか」(I.カルヴィーノ著/須賀敦子訳/みすず書房)で批評を読んだのがきっかけだと思うのだが、それ以来、私は何度も読み返しているし、今年も読んだし、特に来年は何度も読み返すだろう。
最後にプラス1として、「夏目漱石全集」(夏目漱石著/ちくま文庫)。全十巻を第一巻から順に日々少しずつ少しずつ読み進め、現在、第九巻「明暗」を読んでいる途中。今年中に全部を読み終えることができなかったので番外とする。