祝日で休み。今日も自宅で静養。「海から来た男」(M.イネス著/吉田健一訳/筑摩書房)、読了。アプルビイものなどとは違つて、普通の小説に近いエスピオナージュ。吉田健一訳と言ふこともあつてか、いかにも、ある一つの時代の英国風で、サマセット・モームやグレアム・グリーンと言つた伝統の中に位置付けるべき作品と思ふ。この翻訳はずつと品切れで入手し難いが、もつと評価されても良いのではないか。
そして、吉田健一の「訳者あとがき」が短いながら味はひ深い。この訳書の出版は昭和四十五年だが、当時の日本の状況に対して思ふところがあつたのだらう。
これで翻訳で読める M.イネスの長編はあと「学長の死」を残すのみ。しかし、1959 年刊行、木々高太郎訳のこの一冊は入手困難で非常に高価。イネスを日本語で読むのは「海から来た男」で打ち止めになりさうだが、この後、原書にまで挑戦するかどうかはまだ決めかねてゐる。