「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2017/02/15

"The Paper Thunderbolt" とボドリアン図書館

税務署詣でをしてから出勤。普段より少しだけ遅く出社。午後は新宿に往訪。夕方に終了次第、かなり早いがそのまま歸宅。

まづ風呂。湯船の讀書は "The Paper Thunderbolt" (M.Innes / Penguin). 平日毎日、湯船で2、3ページづつ讀んでゐたものが、終に讀了。半年くらゐかかつた。イネスらしいと言へばイネスらしい怪作か。絶対に翻訳もされないだらうし、わざわざ讀む日本人もほとんどゐないと思ふので、あらすじを書いてしまふ。

小悪党が偶然、惡の組織の秘密基地に入り込み、その重大な秘密を盗み出しての長々と續く逃走劇の一方、オックスフォードでは大學関係者たちの失踪事件が発生、この二つのストーリィの焦点は田舎村にある療養施設で、これこそが例の秘密基地。そこでは、人間を対象に邪悪な研究と実験が行はれてゐた。アプルビイ兄妹始め善玉たちは基地を破壊することに成功する。しかし、小悪党が持ち出した「秘密の公式」が書かれた一葉は、ボドリアン図書館の書庫の膨大な書物のどこかに紛れ込んでしまつた。広大な書庫での善玉悪玉の追ひかけつこの末、意外な黒幕が明らかになるのだった。以上。

そもそも始まりの逃走シーンが長い、長過ぎる。意味なく長い。また、秘密基地の強襲に、小悪党の逃走劇に偶然関係した子供たちが自転車隊を組んで仲間入りするところなど、これまた意味のないドタバタもあり、あちこちがイネス風味。最後のボドリアン図書館書庫の場面は、登場人物から「ピラネージのやう」と評される重厚な雰囲気が良し。その他は……特に印象に殘らない。多分、イネスらしい駄作。イネスのマニアか、研究者以外には讀む価値がないと思はれる。

ところで、私はボドリアンの自然科学系の分館には一年ほど日参してゐたが(ちなみに、殺風景かつ現代的な図書館である)、良く考へたら、ボドリアン図書館そのものには一度も足を踏み入れなかつた。残念なことをしたものである。ラドクリフ・カメラに二、三度行つてその雰囲気に満足してしまつたものと思はれる。