往きの車中で玉上「源氏物語」の第九巻讀了。歸りの車中で「横断」(D.フランシス著/菊池光訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)、讀了。
「横断」は競馬シリーズ第 27 作目。今回はド派手な設定で、大陸横断ミステリ競馬列車なるものが舞台。馬と競馬の大物関係者を乗せて競馬場各地を巡りながらカナダを横断する大旅行イベントだ。その車中では娯楽の一つとしてミステリの芝居が現実を舞台に演じられる。そこに競馬界の大悪党が邪悪な陰謀を秘めて、客の一人として乗車するという情報が。一方、主人公はその企みを阻止するため、保安部員(そして大富豪でもある)の身分を隠し、ウェイター(を演じる俳優)として乗り込むのだった……
派手な設定のわりに地味な話ではある。本格ミステリ作家なら、いくらでも趣向を盛り込めただらうが、特に舞台の特殊性が(ミステリ的意味では)生かされない。また、主人公像はやはりいつもと同じ。賢く、強く、清く、正しく、忍耐強く、高潔で、ブリティッシュなスポーツマン。さらに今回は特に理由なく、遺産相続による大富豪。莫大な遺産に背を向け、道楽でジョッキークラブの保安部員をしているのである。しかし荒唐無稽な感じを受けないところは流石だが。
色々言ひたいことはあるが、最初から最後まで一級の娯楽作品として、樂しくすらすらと讀めるのは確か。偉大なるかな、マンネリ藝。