「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2016/06/20

「アプルビイズ・エンド」

週末の読書は「アプルビイズ・エンド」(M.イネス著/鬼頭玲子訳/論創社)。一言で言つて、またしても怪作。事件調査のため機関車で田舎に向かふアプルビイ警部は、雪のため偶然にも「アプルビイズ・エンド」といふ名の駅で途中下車して謎の家族の世話になるはめに陥る。そこで次々に起こる悪戯のやうな怪事件。どれも一家の先祖である故人が書いた小説をなぞつてゐるやうなのだが……と言ふ、ちよつと「ストップ・プレス」に似た筋書。イネスは、小説が現実になる、と言ふネタが好きなのかも。

ミステリマニアの心をそそる設定ではあるが、結局最初から見え見えの動機で、要は悪戯で騒ぎを起こしたかつたのです、以上。と言ふ、まさに拍子抜け、あるいはミステリの掟破りの真相。これは正統派のミステリだと思つて読んでは絶対に駄目で、あくまでイングリッシュでインテリなギャグを味はふギャグ小説だと言ふ覚悟で読むべき。

ギャグと言つても、爆笑できるわけではなく、半笑ひ、もしくは苦笑ひ、と言ふところなのだが、この味を楽しめるかが、イネスを愛せるかの試金石だらう。