「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2014/09/29

「女の決闘」

湿度は低いが暑い一日。帰宅して風呂に入ってから夕食の支度。冷奴(生姜)、南瓜の煮付け、いくら丼、玉葱の味噌汁。

都筑道夫の「わが小説術」という文章に、太宰治の「女の決闘」という短篇について書かれていた。森鴎外が翻訳した「女の決闘」というドイツの短篇小説を引用紹介しながら自分の小説に書き変えてしまうというトリッキィなものらしい(つまり、「女の決闘」には原作、鴎外による翻訳、太宰治によるこの奇妙な作品の三つがある)。これは面白そうだと思い、早速読んでみた。

太宰治の「女の決闘」を駆け出しの時代に読んだ都筑道夫は、大発見をしたような気持ちになったとのことだが、さもありなん。まず、やたらにうまい。さらに、太宰治の怖るべき頭の良さ。目の良い人には分かり難い喩えになるが、知らぬ間に近視が進んでいたところに初めて眼鏡を誂えた時のような印象。頭の良い人の文章を読んだり、話を聞くと、こちらまで賢くなったように錯覚するものだが、その激しい例だろう。そして、間違いなく作品として面白い。

未読の方には一読をお薦めしたい。太宰治と言えば「走れメロス」か「人間失格」、生きていてもいいですか、いやこれは中島みゆきだったが、そういうものだと思っている人にこそ薦めたい。「女の決闘」が含まれている文庫本を買っても損はしないと思うが、電子書籍なら 青空文庫でもAmazon kindle でも無料で読める。