「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2014/08/13

「三木清の思い出」

今日も比較的に気温が低い。でもたまらない蒸し暑さ。昨日に比べて今日の神保町はさらに人が少ないようだ。昼休憩に古本屋の棚を見ていたら、「共産主義的人間」(林達夫著/中公文庫)が三百円だったので買う。

この本の最後に「三木清の思い出」という短い文章が収められていて、「人生論ノート」や獄死した哲学者のイメージに反して若い頃の三木清がいかに俗物だったか、書かれている。才能ある若者なら誰でも持つような野心や愚かさに過ぎないのだが、その筆致は残酷なくらいに厳しい。そして結局、三木清は運の悪い男だった、と突き放すように結ばれている。追悼文と呼ぶにはあまりにネガティヴな印象である。

しかし、繰り返して読むと、怜悧な厳しさは自身にも向いていて、これは一つの懺悔なのではないかとも思えてくる。冷たさの中に隠されているのは、死んだ友人と自分への苛立ち、そして優しさだろうか。やはり友人の思い出としか言いようのない、複雑な味のある文章なのだ。終戦直後、刑務所からの三木の遺体の引き取りに立ち合った林だったのだから、余人には想像することのできない思いがあったであろう。

帰宅して風呂に入ってから夕食の支度。豚肉が高いのでトマトと卵で増量して丼にしてみた。名付けて「赤の他人丼」。特許を取りたいくらい、べらぼうにうまい。切干し大根と葱の味噌汁。夜は、「プレイバック」(R.チャンドラー著/清水俊二訳/ハヤカワ文庫) と「夏目漱石全集6」(夏目漱石著/ちくま文庫)より「門」。