「夫子憮然曰、鳥獣不可與同羣。吾非斯人之徒與、而誰與。
「論語」微子、第十八、六

2016/07/09

SurPrize, surPrize!

私自身とても驚いてゐますが、ロンドン数学会の "Senior Berwick Prize" を京大の日野さんと共同受賞しました(LMS Prize Winners 2016)。末席を汚す、と言ふ言葉が今ほど心に沁みたことはないです。

数学の共同研究では、貢献度は無条件に等分が建前で、だからこそ数学の共著論文の著者名は常に ABC 順なのですが、もちろん現実には等分でないことがあります。実際、この授賞対象の論文では、「予想の解決」を最初に証明したのは日野さんであり、実質的貢献のほとんどは日野さんにある、と言ふことをはつきりとここに記しておきたいと思ひます。

私の貢献を強ひて言へば、この問題が気に入つて機会あるごとに研究会などで宣伝したこと、そして、投稿先を相談したときに Bull. L.M.S. を挙げたことくらゐです。そもそもこの問題に取り組んだ切つ掛けも、シャーロック・ホームズの宿敵モリアーティ教授に倣つて、イギリスで二項定理の研究がしてみたかつたに過ぎません。この問題が数学的に深いと思つたわけでは全然ないです。むしろ、こんな労して益の少ない問題はいくら宣伝したところで、世界で私くらゐしか考へないだらう、と得意に思つてゐたほどです。

私はこの問題を数年間ほど、一人だけで考へ続けてゐたのですが、これと言つた成果は得られませんでした。とは言へ、「一日中、たった一つの微分方程式を睨んでいた」幸福な時間を私に授け続けてくれた問題であり(この場合は、たつた一つの不等式でしたが)、日野さんから「どうやら解けたやうに思ふ」と連絡を突然いただいた時は、同じ問題を考へてくれたこと、解決してくれたことを嬉しく思ふと同時に、もうあの幸福な時間は終はつたのだと、とても寂しく感じたのを、つい昨日のことのやうに思ひ出すことができます。

そんなわけで、私には全く相応しくない授賞なのですが、私自身はずつと以前にこの賞以上のものを数学自身からいただいてゐたな、と思ふのです。